鹿児島県・人口120人の宝島に伝わる財宝伝説 原点は外務省に届いた1通の郵便 そこには英国の大海賊の名が
その名も「宝島」
ハリソン・フォード演じる考古学者インディ・ジョーンズの活躍を描く最新作「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」が6月30日に公開された。前作「クリスタル・スカルの王国」から15年、第1作からは実に42年となる息の長いシリーズだが、8月6日現在、興行収入は24.1億円、およそ167.7万人の観客が映画館に足を運んだ。
大学で考古学を教える70歳になったインディのもとに、自身が名前を付けた旧友の娘が現れて秘宝「運命のダイヤル」を探す旅に出る――冒険活劇と宝探しがセットになった娯楽大作だが、もし、インディが実在の人物だったら、ここを必ず訪れるのではないかという、秘宝伝説の残る島が日本にあるのをご存じだろうか?
九州と奄美大島をつなぐトカラ列島にある、その名も宝島(鹿児島県十島村)である。
鹿児島市から南西へ366キロ、トカラ列島に7つある有人島の中で最南端にあり(ちなみに無人島は5つ)、奄美大島に近い。島の周囲は13.77キロ。面積は7キロ平方メートル。隆起したサンゴ礁でできた、なんとハートの形をした島である。島の形に加え名前が「宝島」とは、なんとも魅惑的な島だが、十島村のHPにはこうある。
「その名のとおり、昔イギリスの海賊、キャプテン・キッドが財宝を隠したという言い伝えがあり、財宝を隠したという鍾乳洞もあります。実際に国内外から多くの探検家や賞金稼ぎが訪れたといわれ、歴史的にみても、宝物のある島というネーミングにふさわしいロマン溢れる海です」
宝島にキャプテン・キッドの財宝? 一体、どんなルーツがあるのだろうか。
外務省に届いた郵便物
昭和12年2月。東京の外務省に1通の外国郵便が届いた。差出人の住所も名前もなかったが、同封された文面には、差出人がコネチカット州に住む探偵の中でも最も知識が卓越し、世界中に情報網を持つことが記されていた。さらに地図も同封されており、スコットランド生まれの大海賊、キャプテン・キッド(本名ウィリアム・キッド)が略奪した、1億ドルの財宝を埋めた隠し場所が示されていた。
〈「情報によれば、この島は日本と台湾の間にある南西諸島で、キッドはその辺りの海域を荒らし回り、獲物をその習慣に従って近くの無人島に埋めた」
「島は地図にもない小島と思われるが、火山島で東側にサンゴ礁がある。宝が眠っているのは『死の谷』と呼ばれるくぼ地で、活火山から出る有毒ガスが澱んだ危険な場所だ。動植物も生存できず、人間も用心しないと死ぬ」
地図も同封されていた。外務省の役人たちは、苦笑いはしても、まじめに取り合う気にはなれなかった。ただ、どこかユーモラスではある。そこで、彼らは記者クラブでの雑談の折に「アメリカから妙な手紙が来ましてね」と、笑い話のつもりでもらしたのだが、記者たちは飛びついた〉(西日本新聞1993年10月31日付)
これが「宝島騒動」のはじまりになったのだという。その後、十島村HPにあるように国内外から探検家が訪れたり、大学の探検部のメンバーがやってきたりした。「死の谷」ではないかとされているのが「観音堂」と呼ばれる最も大きな鍾乳洞。島にはいくつか鍾乳洞があるが、「観音堂」は奥行き400メートルから500メートルはあるという。
また、島の中心部には「イギリス坂」がある。文政7(1824)年、宝島沖にイギリス船が現れ、数人のイギリス人船員が小舟で上陸した。島民は野菜を振る舞うなどしたが、イギリス人は島にいた食用の牛をくれと懇願。断られると、船員は銃を乱射して牛3頭を強奪した。その後、宝島在番の薩摩藩士が応戦し、1人を射殺した。この現場一帯が「イギリス坂」と名付けられた所以だが、この事件の翌年「異国船打ち払い令」が出されることになる。時代は違うが、キャプテン・キッドと同じイギリス人が、この島の土を踏んでいた歴史もあるのだ。
キッドの財宝伝説は今も根強くあり、2015年5月にはアフリカ東部のマダガスカルで、キッドのものとみられる沈没船から銀の延べ棒50キロが見つかったと、英BBCなどがニュースで報じている。キッドは1701年にロンドンで処刑されたが、隠した財宝の行方への関心は高く、エドガー・アラン・ポーの小説「黄金虫」の主題になっているのは周知の通りだ。
宝島へはその後、著名な作家が取材に訪れたり、テレビ局が番組企画で大々的な捜索を行ったりした。鍾乳洞に14か所の探知機を持ち込んだ局もあれば、最初届いた地図を精査し、島の南部にある牧場を発掘した番組もあった。だが、現在にいたるまで、秘宝は発見されていない。
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