享保の大火と大塩平八郎の乱と戦争を乗り越えた「樋屋奇応丸」 哀愁ただよう“赤ちゃん夜泣き”CMソング秘話

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お馴染みのCMソングは“公募”だった

 戦後、また目覚ましい復興を遂げ、1958年ごろからテレビやラジオでもCMが始まる。

「まだ戦時中の1943年、樋屋製薬を株式会社化した13代目忠兵衛は、組織・設備の拡張を進めるとともに広告にも非常に力を入れていたんです。そんな経緯があるせいか、これまで多様なCMがつくられています。正確な制作時期が不明の、マヒナスターズによるのコーラスのもの。女性ヴォーカルによる美しいメロディのもの。子供が歌う童謡調のもの。みなさんにもお馴染みのCMソングは、じつはABCラジオの企画による公募で歌詞ができました。そして九州から静岡までの広いエリアで放送されたそうです。1957年には『CMソング準 ABC賞』受賞という輝かしい賞もいただいています。

 他にも様々CMソングやサウンドロゴも作っていますが、この曲が、樋屋奇応丸のイメージとして定着した様です。実はTVCMの歴史の中で、約10年に1度程度TVCMをリニューアルしており、1980年に元大相撲力士の高見山関を起用したり、2016年には宝塚歌劇団 雪組の星乃あんりさんを起用したりと、長期にわたりその時代背景にあった方の起用をしてまいりました。これからも歴史は大切にしながら、時代に合ったイメージ戦略をとっていきたいと思います」

創業400年、今後の戦略は…

 親から子へと代々伝えられてきた家庭薬の樋屋奇応丸。だが、核家族化が進み、今の子育て世代に「夜泣きにも薬がある」ことがあまり認知されていないのが悩みだとか。

「当社が行ったアンケートでは、子供がいる家庭の66%が“赤ちゃんの夜泣きなどによる睡眠不足”で悩んでおり、かつその有効な対策を打てていないことが分かりました。実際に睡眠不足で困っている人に樋屋奇応丸を使ったことがあるかを質問すると、使った経験のある人は数パーセントにも満たない結果でした」

 現在、近畿圏における“露出度アップのエリア戦略”を強化中だ。ポイントはやはりCM。

「音に親和性が高いということでラジオ局への番組提供を行ったり、人気DJにCMソングを歌ってもらったり。イベントなどで来場者が口にする“ヒヤー”という声を録音して楽曲とミックスするなどの様々な企画も実施し、SNSを通じて拡散していただいたりしています」

 創業400年。新たな展開である。

「まずはテレビCMをご存じの方の90%に対しては、樋屋奇応丸の正しい知識と弊社のスタンスをお伝えして参りたいと考えています。ウェブサイトのページビュー数はこの2年で約5~7倍に増えており、今の子育て世代にも弊社の薬を必要として下さっている方々がいることを実感しています。キーメッセージとして“育児に笑顔を”を掲げる樋屋製薬は、生業である小児薬の製造販売だけでなく、“今”育児をされている人たち、そしてこれから育児に関わられる人たちへの、時代に合った“育児に役立つ情報発信”にも力を入れています。イベント出展などを通してお子さまと遊べる機会を提供したり、薬に関する相談窓口を設けるなど、様々な形で育児に携わる人たちへのサポートができる企業を目指しています」

中西美穂(なかにしみほ)
ジャーナリスト。1980年生まれ。元週刊誌記者。不妊治療で授かった双子の次男に障害が見つかる。自身の経験を活かし、生殖医療、妊娠、出産、育児などの話題を中心に取材活動をしている。障害児を持つオンラインコミュニティ・サードプレイスを運営。

デイリー新潮編集部

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