新しいテクノロジーで「お金」のサービスを作る――辻 庸介(マネーフォワード代表取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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ベンチャーエコシステム

佐藤 上場の際には、どんな感慨がありましたか。

 起業して実績のない時から「こうなる」と言い続けてきたことが、ようやく証明できたという思いが一つ。それからVC(ベンチャーキャピタル)から出資していただいていたので、それがお返しできてよかったという安堵ですね。上場益を得たVCのお金はまた別のベンチャーに投資されていく。そのベンチャーエコシステムを止めなくてよかったと思いました。

佐藤 いろいろなお金が入っていた。

 松本大さんからも出資いただいていました。ソニーがマネックス証券に投資し、その松本さんが僕に投資してくれた。ですから、最近、この会社の新卒第1号が生成AIで起業した時、僕たちも出資しました。これが続いていくといいですね。

佐藤 次世代を応援する文化が生まれている。

 はい。「ペイ・フォワード(お金を前に)」です。

佐藤 松本氏と話していた時も感じましたが、みなさん、社会還元という意識が非常に強い。

 特に僕たちの世代の起業家は強いかもしれませんね。「Die with zero」、つまり死ぬ時は何もなくていい、という言葉をよく使います。

佐藤 いま大きな2本柱があるわけですが、今後、どう事業を展開されていきますか。

 大きく二つあります。一つはやはりフィンテックサービスですね。例えば「エンベデッド・ファイナンス(組み込み型金融)」です。eコマースで決済する時、ワンクリックで支払いが終わりますね。あの世界観を会計に持ち込む。会計ソフトを見ていたら、どのくらいお金があるか、どのくらいの支払いがあるか、すぐわかります。それならクリック一つで、一定額のお金は借りられますし、送金も請求書を取り込んだらすぐ支払うことができます。こうした組み込み型金融は、次のテーマです。

佐藤 お金の回り方が早くなり、従来とは違う経済が生まれますね。

 それからもう一つはグローバルです。やはり日本だけでなく、グローバルで成功したい。

佐藤 「マネーフォワード ME」などを持っていくのですか。

 ローカルルールがあるので、プロダクトを持っていくのは難しいでしょうね。そもそも海外では、あまり家計簿をつけないでしょう。

佐藤 家計簿をつける習慣は、日本と韓国くらいだと思います。

 他の国はお金を借りたり、送ったりといった、もっとプリミティブなサービスになるでしょうね。

佐藤 すでに海外に進出しているのですか。

 ベトナムに2カ所、インドに1カ所、開発拠点があります。それからインドネシアで一番大きなSaaS(クラウド上でのソフトウエアサービス)会社の大株主で、社外取締役を6年ほどやっています。この会社を中心に東南アジアでサービスを展開していきたいですね。

佐藤 東南アジアで経済的な潜在力があるのは、インドネシアとベトナムです。

 僕はけっこう日本が好きなのですが、残念ながらこれから中長期でみると、人口減もあり経済状態はよくありません。この先を考えれば、僕たちが外に出て稼がなければならない。こうしたフィンテックは日本がリードしている部分も多いんです。ですから日本型フィンテックを海外に広めていくことは十分に可能だと思っています。

辻 庸介(つじようすけ)  マネーフォワード代表取締役社長CEO
1976年大阪府生まれ。京都大学農学部卒。2001年ソニー入社。04年マネックス証券に出向した後、ペンシルベニア大学ウォートン校に留学、11年にMBAを取得した。12年マネーブック(同年マネーフォワードに改称)を設立。17年に日本のフィンテックベンチャーとして初めて上場(東証マザーズ)した。

週刊新潮 2023年8月10日号掲載

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