新しいテクノロジーで「お金」のサービスを作る――辻 庸介(マネーフォワード代表取締役社長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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惨敗から始まった起業

佐藤 いったん仕事を離れて勉強する留学生活では、いろいろアイデアが出てくるでしょう。

 当時、野村證券からスタンフォード大学に留学していたのが、創業メンバーとなる瀧俊雄でした。彼も金融とインターネットを掛け合わせた事業を考えていて、二人でスカイプでいろいろアイデアを出し合い、ディスカッションをしていたんです。

佐藤 ペンシルべニア大学はアメリカの東海岸で、スタンフォード大学は西海岸です。瀧さんとはどのように知り合われたのですか。

 彼が一緒に事業を作る仲間を探していて、人づての紹介を重ねて、僕のところに連絡してきました。

佐藤 なるほど、いまはそういうプロセスで人がつながり、事業の核が生まれてくる。

 帰国後、最初はマネックス証券の中で事業を立ち上げようとしたんです。ただリーマンショックの後で、新規の投資はストップしていた。1年半くらい松本さんに相談していたのですが、結局立ち上げることができず、最後はもう自分でやるしかないと決断しました。

佐藤 最初は何から始めたのですか。

 僕たちの世代は、みんなフェイスブックに衝撃を受けたんですね。情報をオープンにして人とつながったらこんなにも人生が豊かになるのだと感動した。この方法をお金の分野にも使えないか、と考えたのです。つまりはフェイスブックのお金版を作ろうとした。

佐藤 お金の情報をやり取りするわけですか。

 お金については、みんな知りたいじゃないですか。株でうまく増やしている人はどんな取引をしているか、資産のポートフォリオはどうなっているかなどには関心がある。それで匿名で登録して、自分の情報をオープンにすると、相手の情報も見られる「マネーブック」というプロダクトを作ったんです。

佐藤 それはかなり過激ですね。

 そうなんです。あまりに開発者目線で走りすぎていて、まったく広まらなかった。利用者は僕たちの友達とその友達の範囲で50人にも満たなかったですね、惨敗です。

佐藤 お金とSNSはあまり相性がよくなかった。

 その通りです。やってみて気が付いたのですが、ネットに相性のいいサービスと、そうでないサービスがあるんですね。

佐藤 それは興味深いですね。

 金融サービスだと、株式やFXなどのトランザクション(取引)系は相性がいいのです。ところが保険とか投資信託、あるいはM&Aなど、対面でのコミュニケーションが必要なサービスは、相性が悪いんですね。

佐藤 そこは人間の心理や行動原理が関係しているのでしょうね。

 サービスという観点からお話しすると、「顕在的ニーズ」と「潜在的ニーズ」があります。顕在的ニーズは、何かが欲しいとか、こういう情報を知りたいというもので、例えばおいしいレストランを見つけたいなら、インターネットで簡単に出てくる。つまり相性がいい。

佐藤 時間も節約できます。

 一方、「潜在的ニーズ」は、人から引き出してこなくてはいけないものです。保険なら、なぜ保険が必要なのか、いまの年齢にはこうしたリスクがあって、と潜在的なニーズを引き出してから販売する。この部分はやはりインターネットは弱い。

佐藤 これまで人の比重が大きかったサービスは、ネットではまだうまく対応できていない。

 いま話題の生成AIが進歩していくと、変わってくるかもしれませんけどもね。僕は、生成AIは、インターネット、スマートフォンの登場に次ぐプラットフォームの変更かもしれないと思っています。

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