自民も戦々恐々…“身を切る改革”の「維新」は、最大の聖域「医療費」に切り込めるか
4月の統一地方選挙での躍進を受けて、日本政治の“台風の目”となりつつある日本維新の会。この勢いを国会での勢力拡大につなげるために何より大事なのが、維新が「どんな政策を打ち出すのか」であることは論を俟たない。看板の「身を切る改革」だけでなく、骨太で自民党にはできない、現実的かつ魅力のある政策を打ち出せなければ、多くの有権者の選択肢にはなりえないだろう。
維新内部では急ピッチで選挙公約の詰めの作業が行われているが、ここで大きな目玉政策が浮上していることが分かった。選挙戦で国民負担や増税の問題が争点になることが間違いない中で、「財源論に楔を打ち込む」(維新幹部)政策だという。その政策とは一体何なのか取材した。【青山和弘/政治ジャーナリスト】
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“暴走列車”を止める
「岸田(文雄総理)さんがやろうとしている、国民の負担を増やし続ける政治構造、行政構造を変える。(その一つとして)医療構造の改革は絶対必要だと思います。無駄に使われたり、構造が悪いからコスト高になるもの、ひずみが既得権化しているものは合理化すべきだと思います」
日本維新の会の藤田文武幹事長が「国民の負担を減らす」政策の一つの柱として語るのが、「医療構造改革」だ。日本の医療費は2021年度で44兆円あまり。高齢化の進展などにより、2040年度には80兆円に達する可能性もあるという(厚生労働省試算)。この医療費爆発にどう対処するのか。国民負担を減らそうとするなら、絶対に避けて通れない本丸だ。
日本の医療には大きく二つの構造問題が存在する。一つは「医療が病気やけがを治療するものとされ、予防へのインセンティブが乏しい」ということだ。つまり、医師は患者を治療するのが仕事で、病気の芽を摘むことは健康保険の適用外。そのため患者予備軍は「経過観察」という名の下に事実上、放置される。この構造が健康とお金の無駄につながっているというものだ。
もう一つは「医療費の無駄をなくす仕組みやインセンティブが誰にも働いていない」ということだ。患者は丁寧な診察、高度な検査、薬の手厚い処方をありがたがる。窓口負担が低い患者ほどその傾向は強いだろう。そして、保険組合は事務処理に徹し、医療費の無駄をチェックする機能はほぼ果たしていない。コストを下げた医師に報酬を与える仕組みはどこにもないのである。医療構造問題に詳しい医師で『投資型医療 医療費で国が潰れる前に』(ディスカヴァー携書)の著者・山本雄士氏は語る。
「日本の医療費は放っておくと暴走列車のように増えていきます。後手に回った“トラブルシューティング型医療”から脱却して、健康な人を増やすこと。そして負担の分かち合いばかりでなく、健康や医療費の無駄遣いを減らせば報われる仕組みを導入して、医療費を将来への投資にする発想が大事です」
「医師会べったりの自民党にはできない」
この現状に日本維新の会は切り込んでいくことができるのか。
現在検討されている施策の第一点は、治療から予防に大きく転換していくことだ。患者に対しては、健康診断の受診率や喫煙飲酒の状況、肥満率などに応じて保険料を値引する。健康保険を掛け捨てではなく、積み立てにするという案もある。また、医者に対しては、予防診療を診療報酬の対象にし、「健康な人を増やす医療」に道を開く。さらに、地域の健康指標が上がれば、その地域の医者の診療報酬の点数を上げるというインセンティブを与えることも考えられる。健康組合に対し、組合員の健康指標に応じて報酬を与えることも一案だ。
こうした施策は一時的に医療費が増えるという見方もあるが、予防可能な生活習慣病が蔓延する日本に健康な人が増えれば、おのずと医療費は下がるという考えだ。ある維新議員は「治療から予防へは、日本の医療のパラダイムシフトになる」と胸を張る。
二点目はデジタル化の推進による無駄の削減だ。具体的には、見える化による検査・薬・診療の重複や無駄の削減、パーソナル・ヘルス・レコード(1国民1カルテ体制)の導入、オンライン診療の促進によって医療費を抑えるなどの施策である。維新内ではこれにより2兆円近くの医療費が削減できるという試算もある。維新の音喜多峻政調会長はこのように話す。
「次の総選挙では防衛費や少子化対策の財源問題が間違いなく焦点になります。医療費に切り込めば、その額が大きいだけに結果も大きい。しかも医師会べったりの自民党ではこの改革はできません。しがらみのない維新らしい重要な政策になるでしょう」
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