「朝食抜き、甘い朝食はNG」「アボカドは記憶力にも効くスーパーフード」 スタンフォード式「本当の疲労対策」をプロが伝授

ドクター新潮 ライフ

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メンタルとマインドセット

 疲労対策には、もちろん睡眠も大切です。アスレチックトレーナーの大事な仕事のひとつとして、けがをした選手のケアが欠かせませんが、彼らにはなるべく早い段階で、できる範囲で構わないので体を動かすように指導しています。

 なぜなら、日中に体を動かさなかったり、日光を浴びなかったりすると体の機能低下や脳内時計のバランスの崩壊がどんどん進み、寝る前になって自律神経の交感神経(オン)と副交感神経(オフ)の切り替えがうまくいかず、自律神経のバランスが崩れ、入眠しにくくなったり睡眠の質に問題が生じてしまうからです。

 睡眠時間がしっかりと確保できなければ、寝ている間の体力回復もままならなくなります。つまり、疲れないためにじっとしていることが、逆に疲労の蓄積につながるということが起き得るのです。

 そして、メンタルやマインドセット(考え方)も疲労対策には欠かせない要素です。ストレスは疲労の大きな原因ですから、それを抱え込まないようにネガティブではなくポジティブな思考を心がける。しかし、言うは易く行うは難しです。

「できない」ではなく「まだできない」

 そこで参考になるのが、心理学者でスタンフォード大学教授のキャロル・ドゥエック氏のメソッドです。ある時、彼女がこんな単語の有用性を教えてくれたことがありました。それは「yet(まだ)」です。「できない」ではなく、「まだできない」と考える。そう考えることで、誰もがネガティブではなくポジティブなマインドセットへの転換の一歩を踏み出せるというのが、ドゥエック教授のアドバイスです。

疲労の哲学

 ここまで具体的な疲労対策を説明してきましたが、最後に「疲労の哲学」についてお話をしたいと思います。

 疲れない体になりたい、疲労をため込みたくない。多くの人は漠然とそう考えていることでしょう。しかし私は、それは「手段」であって「目的」ではないと考えています。

 もちろん、疲労自体が苦痛や不快感を伴うものですから、それを取り除きたいと願うのは当然です。一方、疲労を除去したその先で何を達成したいのか。それこそが真の目的であり、よく考えるべきことではないでしょうか。

 アスリートで考えてみると、野球のピッチャーであれば年間何勝する、サッカーのストライカーであれば何ゴールを決めるという目的があり、それを達成するために「疲れ」は妨げとなるので疲労対策を行う。

 それと同じで、サラリーマンであれば疲れをとって社内の誰も思いつかないようなプランを考え出すことであったり、抜群の営業成績を挙げて社長賞を取ることが目的であるかもしれません。

 リタイアした高齢者であれば、単に長生きするだけでなく、90歳までつえなしで歩いて孫と一緒に遊ぶことが目的で、そのために日々疲れていたらもたないので疲労対策という手段をとる。

 こうして各自の目的を達成するために食事、睡眠、運動、マインドセットという四つをどう組み合わせていくべきかを考えることが、「本当の疲労対策」なのではないでしょうか。

 疲れるのはしんどいから疲れないように心がける――。疲労対策自体が目的になってしまうと、ゴールなきマラソンのようなもので、結局、対策は続けられず、それこそ疲れ果ててしまうと思うのです。

山田知生(やまだともお)
スタンフォード大学スポーツ医局アソシエイトディレクター。1966年生まれ。24歳までプロスキーヤーとして活躍した後に、米サンノゼ州立大学大学院でスポーツ医学とスポーツマネージメントの修士号を取得。2002年秋にスタンフォード大学のアスレチックトレーナーに就任。同大スポーツ医局での臨床経験も持つ。『スタンフォード式 疲れない体』『スタンフォード式 脳と体の強化書』の著書がある。

週刊新潮 2023年8月10日号掲載

特別読物「夏バテの季節到来 スポーツ医学が導く スタンフォード式『本当の疲労対策』」より

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