米国はリモワ普及で商業用不動産市場が低迷…オフィスビルの価値が110兆円減少との衝撃的試算も

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リモワ普及で社員がオフィスに戻らない米国

 米国ではこのところ「ソフトランディング(景気軟着陸)」論が優勢になっている。

 今年第2四半期の実質国内総生産(GDP、速報値)は前期比2.4増と、市場予想(2.0%増)を上回った。6月のインフレ率が前年比3.0%増に低下しているのも好材料だ。市場では「年末までにリセッション(景気後退)に陥る」との声がほとんどなくなり、株式市場も好調さを取り戻している。

 そんな中、米国経済に暗い影が忍び寄っている。

 米総合不動産サービス企業「ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)」は「米国のオフィス面積が史上初めて減少する可能性が高まった」との見方を明らかにした。

 JLLによれば、今年米国で着工された新規オフィスが500万平方フィート(46万5000平方メートル)弱であるのに対し、その約3倍の1470万平方フィートが他の用途への転換などで撤去されている。オフィス面積が実質的に減少するのは、2000年以降のデータで初めてだという(7月28日付ブルームバーグ)。

 オフィス需要の低迷は新型コロナのパンデミックが大きく影響している。

 コロナ禍でリモートワークが普及したことにより、米主要都市圏では社員がオフィスに戻ってこない状況だ。企業はオフィスの規模を縮小し、賃貸料が高い都心から離れる動きを本格化させている。このため、米国主要25都市のオフィス空室率は軒並み上昇し、中でもサンフランシスコは28%超と高い数字を記録した(8月10日付時事ドットコム)。

米国以外の商業用不動産市場にも赤信号

 米国では商業用不動産が「座礁資産(経済価値を生まない資産)」と化しているのに対し、住宅用不動産が「高嶺の花」になりつつある。在庫不足で中古住宅の販売価格が過去最高値圏で推移し、値ごろな住宅が購入しづらくなっている(8月9日付日本経済新聞)。

 不動産市場で深刻なミスマッチが生じていることから、ニューヨークなど大都市の古いオフィスを全面改修し、住宅の確保に苦労している若い専門職向けの居住施設に転用することが提案されている(7月14日付英フィナンャル・タイムズ)。だが、速効策とは言いがたく、「泥縄」の感も否めない。

 オフィス需要の低迷は米国に限った現象ではない。

 英不動産サービス企業「ナイト・フランク」は「従業員5万人超の大手多国籍企業の経営者の半数は今後3年間でオフォスの総面積を10~20%減らすことを計画している」と指摘している(6月6日付ロイター)。

 米国以外の商業用不動産市場にも赤信号が灯りつつある。

 欧州経済の要であるドイツの商業用不動産市場は閑古鳥が鳴いている。前述のJLLは「ドイツの商業用不動産市場の今年上半期の取引額は昨年下半期から50%減少して149億ユーロ(約2兆3500億円)となり、少なくとも2017年以来の低水準に落ち込んだ」ことを明らかにしている(7月5日付ブルームバーグ)。

 欧州の金融センターである英国の商業用不動産市場にも逆風が吹いている。王立公認不動産鑑定士協会は7月27日、「商業用不動産市場は低迷」という見方は不動産鑑定士の3分の2に上るとの調査結果を公表した。

 不動産市場が長年活況を呈してきた豪州も例外ではない。豪州不動産評議会は8月3日、上半期のオフィス空室率は1990年代以来の高水準と公表した。大企業の本社が集中するシドニー、メルボルン、パース中心部の空室率は既に10%を超えているという。

 中国の商業用不動産の足元の状況は把握できていないが、不動産バブルが崩壊した現在、環境が悪化していることは間違いないだろう。

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