超豪華「VIVANT」はドラマではなくショー、莫大な制作費を回収で“ツメの甘さ”も…辛口コラムニストが徹底分析した

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大コケ映画との類似点

林:まぁ、大演出家なんて持ち上げちゃった福澤も、名を売った「(3年B組)金八(先生)」(第4~7シリーズ)や、それ以前の「誰にも言えない」、あるいは「半沢直樹」や「ドラゴン桜(21年版)」を見ればわかるように、ときにおどろおどろしく、やりすぎなほど濃い演出をする人。

アナ:そうですね。TBSには“ドラマのTBS”だけに著名な社員演出家がたくさんいて、久世光彦さんや実相寺昭雄さんのように個性的な演出で知られ、早めに退職して独立するタイプや、手堅い演出で常務にまでなった鴨下信一さんのようなタイプもいました。しかし、福澤さんのように“濃い”演出家でありつつ定年まで勤め上げるタイプは初めてではないでしょうか。

林:それは“ドラマのTBS”が“ショーのTBS”に化けたということかもしれないねぇ。ワタシの印象では、福澤という演出家は脚本家が描いた絵を派手な額縁で飾るタイプで、ところが今回は原作まで手がけて、つまりは絵描きの分野にまで手を出している。これが吉と出るか凶と出るか、そこを見極めたいというのが実のところワタシが「VIVANT」を見続けている最大の理由なのよ。

 というのも、「VIVANT」を見ている間、パッパッと頭に浮かぶのは、さっきも言った“本歌取り”の映画やドラマだとして、見終わった後に思い出すのは邦画なら「落陽」(92年)とか、洋画なら「イシュタール」(87年)とかだからさ。

アナ:お恥ずかしながら、どちらも未見です。

林:いや、見ているほうが恥ずかしいくらいの中身は駄作で商売としても失敗作というオールスターキャストの大作です。満州国を舞台にした「落陽」は、日活(当時は「にっかつ」)の創立80周年を記念する制作費50億円の超巨篇だったのに、大コケして日活にとどめを差したと言われる1本だし、「イシュタール」は、ウォーレン・ベイティとダスティン・ホフマン、さらにはイザベル・アジャーニまでが顔を揃えた、中東が舞台のスパイものなのにコメディという珍品で、やっぱり見事にコけ、それでコロンビア・ピクチャーズが傾いてソニーに買収されるきっかけになった。

アナ:そこまでの失敗作でしたか……。その2本にはオールスター大作であることの他にも「VIVANT」との共通点があるわけですね。

林:そう。畑違いの書き手(原作であれ脚本であれ)が手がけるストーリーは大風呂敷を広げがちであること、その書き手が演出まで手がけることでエラーの訂正機能が働かなくなり、作品が暴走するリスクがあること。

アナ:確かにそのあたりの懸念は「VIVANT」も無縁ではありませんね。

林:大コケ映画との類似点は他にもあって、せっかく海外に舞台を設定してロケまでやってもその成果を反映させるのは難しいこと、コメディ要素を加味することでサスペンスやミステリーとしての緊張感が削がれること、それまでに当たった作品あれこれの要素を一作に集めた総決算的な企画は総花的な駄作になりやすいこと……おいおい、ずいぶんあるぞ。

「VIVANT」のツメの甘さ

アナ:「VIVANT」はこれまでの視聴率などの推移を見るかぎり、大きくコケるということはなさそうですが、1話あたり1億円とも噂される制作費の回収は簡単ではないとの指摘も出ています。

林:海外まで含めたオンライン配信や映画版の制作といった話も聞くけれど、だとしたらちょっとツメが甘いかな、というツッコミどころがあれこれあるのも気になる。イスラム教の施設だという建物の捜索に警察犬を連れ込んだのを見たときには、他人事ながら心配になったし、劇伴に安易に、かつ繰り返しワーグナーを引用するのも、ちょっと無神経じゃないのと。

アナ:イスラム教では一般的に犬は不浄・不吉とされていますし、ユダヤ系のなかにはワーグナーの作品を強く嫌う人たちも少なくないですからね。本人は反ユダヤ思想の持ち主で作品もナチスに重用されましたから。

林:「VIVANT」では一方で、死の砂漠の横断を助けてくれて疲労困憊のラクダに、堺や二階堂がやけに優しく接するシーンもあって、それはそれで悪くないんだけれど、でもこれは海外配信に向けてのアニマル・ライツ対策なのか、それとも何かの伏線なのかと混乱させられたりもするし、さっきの話の“本歌取り”連発と合わせて、なんだかいろいろ無駄に脳味噌を使わされもするから、見ていて疲れるのよ。

 スター集めて派手にロケやってドンチャカ騒ぎたいのなら、「(007)カジノロワイヤル」(67年)とか「キャノンボール」(81年)とか、お気楽路線に振ってくれたほうがまだ見ている側は気が楽。

アナ:しかし、先ほどから例として挙げられる映画に、いつにもまして古い作品が多いですね。

林:「VIVANT」のような派手なオールスターキャストものが、もう古い枠組みだからねぇ。わりと最近の映画なら「オーシャンズ11」(01年)から続くシリーズ(18年の「オーシャンズ8」まで)あたりがあるけれど、あれもフランク・シナトラの「オーシャンと十一人の仲間」(60年)のリメイクだし。

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