超豪華「VIVANT」はドラマではなくショー、莫大な制作費を回収で“ツメの甘さ”も…辛口コラムニストが徹底分析した
ドラマではなくショー
林:「VIVANT」については他にも凄く引っかかっていることがあって、それはストーリーを追っていても、ショットやシーンを見ていても、あるいは劇伴を聴いていても、先行する他の映画やドラマからの“本歌取り”が多いこと。たとえば、モンゴルでロケしたという砂漠や岩山の場面は「アラビアのロレンス」や「スター・ウォーズ」あたりが脳裏をよぎるし、堺が勤め先の商社のサーバールームに侵入するシーンは「ミッション:インポッシブル」の第1作で、バルカ共和国の警察が展開するときに流れる音楽は「地獄の黙示録」経由のリヒャルト・ワーグナー(「ワルキューレの騎行」)という具合。
アナ:いや、確かにそうです。
林:どれもセコいパクりではなくオマージュやらリスペクトやらの範疇には入るから、つまりは視聴者サービス、あるいはSNS向けの撒き餌なんでしょう。堺や阿部の芝居に、これまでに出演した数々の作品で見せた“あんなポーズ”や“あんな衣装”“あんな台詞回し”がちょくちょく出てくるのも、視聴者へのくすぐり。だけれど、そういう本歌取りが次々にあちこちで繰り出されると、もうホントにドラマではなくショーになってくる。
アナ:なるほど、まるで名場面集のようですね。
林:もちろんストーリーが最後まで明かされたわけではないので、ドラマとしての一貫性や物語の論理性が後回しだと批判するのは気が早すぎであって、“最終回を見終えたら、至高の商品・究極のショーであるだけでなく、至高の作品・究極のドラマでした”というオチになってくれないかなと、まだ期待はしてるんだけどさ。
宣伝のないことこそ宣伝に
アナ:林さんがまだ見放したり突き放したりしていないのは珍しいことですね。
林:送り出す側があれだけのカネと熱意をかけ、受け止める側がこれだけの時間と興味を割いている「VIVANT」だからさ。ただ、その受け止める側の受け止め方、あるいは騒ぎ方については、ちょっと意地の悪い見方もしてるけど。
アナ:意地の悪い見方、と言いますと?
林:「VIVANT」はオンエアが始まるまでの前宣伝をほとんどしていなかったでしょ。
アナ:ええ。同じように公開前に情報を出さなかった宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」とともに、異色のPR戦略だと話題になりました。
林:そう。宣伝をしないことが宣伝になるという手法。そして、放送が始まった後もしばらくは、出演者が他の番組に出てPRするようなことがなかったり、キャストを追加で発表したりと、とにかく情報を絞った。
こういうチラ見せのストリップティーズというのは、決して上品ではないけれど“アリっちゃアリ”の手で、いざ幕を開けてみたら中身は格調高い「君たちはどう生きるか」だったら万々歳。でも、「VIVANT」みたいなド派手なエンタメ物件だと、大演出家・福澤克雄がTBS定年記念(?)で原作まで手がける“作品”ではなく、秋元康あたりが企画やら監修やらで関わる“商品”に見えてきちゃう。
林:あざといという声はネットなどでも出ています。
林:でもそのネット、特にSNSで、「VIVANT」をめぐって意味ありげなくだりの解釈とか、展開の予測とかがエラい勢いで噴出して、それをまたスポーツ紙だのネットニュースだののコタツ記事が増殖させている。
アナ:ええ。
林:あのエコシステムを観察してると、「TBS、お主もワルよのぉ」と言いたくなる。ネットが盛り上がったところで「別班饅頭」を売り出すとか、マジ越後屋クラスの“悪徳商法”でしょ(笑)。
アナ:悪徳商法というのは冗談が過ぎると思いますが、やはり、あざとい印象はあります。
林:事前のPRをしなかったのは、豪華な出演者のギャラや海外ロケの費用が嵩んで宣伝費を抑えたからなんて見方も出ていたけれど、実は従来型の番宣にかける費用をネット工作に振り向けただけなんじゃないかという気さえしてきてさ。
アナ:それは本当に意地が悪い見方ですが、宣伝のないことが話題だった「VIVANT」について、林さんが最初に「宣伝バッチリです」と言っていた意味がやっと見えてきました。確かにネットでの盛り上がりは加速しているようで、まさに秋元康さん企画・原案の「あなたの番です」(日本テレビ系)がネットで話題になって視聴率を上げていった流れを思い出します。
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