超豪華「VIVANT」はドラマではなくショー、莫大な制作費を回収で“ツメの甘さ”も…辛口コラムニストが徹底分析した

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ヒット商品を生み出すには?

アナ:とはいえ、日曜劇場には「テセウスの船」や「TOKYO MER―走る緊急救命室―」など、主演経験が豊富とは言えなかったころの竹内涼真さんや鈴木亮平さんを看板に据えてヒットした作品もありました。

林:そうそう。キャスティングにだけカネかけりゃいいってわけではないこともよくわかる例だよね。逆に福山主演でコケた「集団左遷!!」もそういう例に含まれる。

アナ:となると、「テセウス」や「TOKYO MER」のヒットの要因は、キャスティング以外にあることになりますね。それは何なんでしょう。

林:無茶苦茶いい質問で、その答えは“良質な作品”ではなく“売れる商品”をつくるための努力でしょう。「テセウス」も「MER」も、あるいは「DCU」だって、脚本や演出といった役者や演技以外の部分についての評価は決して高くなくて、連ドラが“作品”だとするならば、駄作だったとワタシは思います。が、連ドラが“商品”であるとするならば、ヒット商品にはなった。

アナ:ヒット商品を生み出すための努力とは?

林:脚本の完成度の追求を放棄することです。

アナ:これもまた、身も蓋もない……。

林:「テセウス」の大きな勝因は、ミステリーとしての全体の完成度などにはこだわらずに、臆面もなく次から次へと謎かけを引き延ばしていく商法であり、「MER」や「DCU」であれば、設定や物語の破綻なんか気にかけることなく、役者たちの見せ場――ほとんどが派手なアクションシーン――を次々繰り出すことを優先する商法であり。ここしばらくのアメリカのドラマにもそんなのがけっこうありますが、突き詰めれば、劇ではなく見せ物、ドラマよりショーを作り出したわけです。

 度肝抜きまくりのアクションシーンから先に撮り始めてストーリーは後から考えたという映画「ミッション:インポッシブル」の6作目(「フォールアウト」18年)みたいな作劇法がないわけじゃないけれど、日曜劇場にトム・クルーズは出ないからなぁ。

“映える”場面づくり

アナ:あ……。林さんが先ほど、キャスティング以外のヒットの要因を尋ねた私の質問を「いい質問」だと珍しく褒めてくれた理由がわかりました。「テセウス」や「MER」のような“作品としての評価は低いけれど商品としての成績はいい”ドラマが当たった要因は、今回の「VIVANT」が人気となっている要因と共通していると考えているからですね。

林:そのとおり。「VIVANT」が視聴率やら注目度やらを上げてきている要因は2つあって、1つはもちろん凄いと言わざるをえない役者を揃えていること。で、もう1つは設定や展開、つまりは脚本づくりにおいて、設定の論理性や物語としての一貫性より、場面場面が“映える”かどうか、次の展開へのフックをどれだけバラまけるかに注力していることです。

アナ:論理性や一貫性、その支えとなるディテールがなおざりになっていることは私も感じました。ドラマの前半でストーリー展開の鍵になったのは、商社から海外への1億ドルの誤送金や、それを可能にしたシステムの改竄でしたが、会計やシステムのプロからは、単純化されすぎて現実離れしているといった指摘を聞きます。

林:そうそう。バルカ共和国にある日本大使館で起きるあれこれも、ご都合主義が目立ってたよね。秘密の地下トンネルを辿って侵入してきたバルカ警察の一隊に銃を掲げて館内を自由に捜索されちゃったりすると、それまで筋立ての柱になってきた大使館内の治外法権があっさり否定される。

アナ:作品より商品、劇より見せ物、ドラマよりショーということか……。

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