夏の風物詩「テキヤ」業界のいま たこ焼きは700円時代、空洞化が進む原因、キッチンカービジネスに参入するケースも 暴対法とは無縁の“スローライフ”

国内 社会

  • ブックマーク

辛い仕事内容

 そんなテキヤ業界も他の業界と同じく、「慢性的な人手不足」に陥っている。テキヤの場合は、空洞型の人手不足と言える。お祭りの華やかさに憧れて、見習いとして門を叩く若者は割といる。お祭り好きの若者がテキヤに入門するのである。

 だから、テキヤ業界には思いのほか若い男女がいる。手伝いで来る未成年者もいるぐらいだ。若い男女が縁日の屋台で焼きそばを調理している姿を見かけたことがある人も多いだろう。

 だが、次によく見かけるのは50歳代以上やご老人になってしまう。近年の屋台で、20代後半や働き盛りの30代、40代を見かけることは少ない。門を叩く若者は多いのだから、経験を積んで成長し、20代後半で一人前。その後は「若手親方」クラスの30代、40代として活躍してよさそうなものだ。だが、テキヤ業界には20代後半から40代の年齢層がごっそりといない。それはなぜか?

 テキヤの労働時間はお祭りの開催時だけではなく、その日の準備のために早朝4時から稼働することも珍しくない。お祭りが終われば後片付けで、帰宅時間は深夜過ぎになることも当たり前だ。露天だから夏は暑くて冬は寒い。雨天は稼ぎにはならず、社会保障も一切ない。

空洞化の原因

 全国各地の催事場を回り始めれば、「まともに自宅に帰れるのは来年の今頃か?」といった勤務スケジュールだ。まったく稼ぎにならない時期もある。要するに「ブラック企業」なのだが、露天商は規模が小さいため「ブラック仕事」という表現が実情に合っている。

 一度はテキヤの門を叩いた若者も、しばらくするカタギの別業種に転職するか、「テキヤよりオレオレ詐欺のほうが儲かる!」と早合点して裏社会に流れることも珍しくない。

 テキヤは暴力団ではないので、辞めたくなったら辞めることができる。人によっては多少の引き止めもあるだろうが、基本的には辞める権利は尊重されている。やる気がない人には向かない商売という意識が高いからである。

 暴力団が営む露天商と知り合いになって、そのまま暴力団員になってしまう若者もいる。だが、暴力団こそ正真正銘の「ブラック企業」なので、そこでも嫌気が差してしまう。暴力団から逃亡し、流れ着いた先は「半グレ」という若者も少なくない。

 流浪の果てに罪を犯して警察に逮捕され、貴重な人生を懲役で浪費する若者もいる。こういう現象が続いているため、テキヤ業界は20代後半から40代までの年齢層が極端に少ないという空洞化が続いている。

次ページ:外国人露天商の実態

前へ 2 3 4 5 6 次へ

[4/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。