夏の風物詩「テキヤ」業界のいま たこ焼きは700円時代、空洞化が進む原因、キッチンカービジネスに参入するケースも 暴対法とは無縁の“スローライフ”

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厳しい懐事情

「テキヤ稼業は露天商であって、言い換えれば青空商売ですから、雨が降ると商売になりません。仕入れた材料が全部無駄になってしまう日もあります。原材料の高騰については恐ろしさを感じます。値段も上がって、お客さんには申し訳なく思いますが、仕入れ値が上がったわけで、自分たちの取り分(日当)が増えたわけじゃありませんから、そこらへんは理解してほしい」

 こう語るのは、テキヤ一筋50年のベテランだ。店舗販売ではない、露天商ならではの本音と言えるだろう。

 また、露店の屋台で調理をする際は蓄電器や発電機を使用するが、その電気代や燃料代の値上がりも商品価格を押し上げている。結果として、テキヤの懐事情は、お祭りが再開されたにもかかわらず、決して楽ではないそうだ。

 とあるテキヤは仕入れ値の負担を下げるべく、タコ焼きや焼きそばなどの調理が必要となる商品を諦めて、既製品の缶ジュースを「委託販売できないか?」と飲料品問屋に交渉したそうである。

 委託販売とは、最初に商品だけを預かって売れた分だけの仕入れ代金を後払い、残った在庫は問屋に戻すというやり方だ。さすがにこれは前例がないとして、問屋に拒絶されたそうである。

四苦八苦のテキヤ業界

 別のテキヤは、各屋台から出た余り物やお客さんの食べ残しの残飯をかき集め、肥料や家畜の餌として農家に売りに行くことまで考えたそうだ。だが「何かが違う!」と感じて思い直したそうである。

 このように四苦八苦しているテキヤ業界だが、前出のベテランは「でも、やっぱり祭と言えばテキヤでしょ。辞めるわけにはいきませんよ。お客さんたちも頑張っているんだから、(原材料高騰の逆風に負けず)自分たちも頑張りますよ!」と力強く語った。

 先日、東京都内で4年ぶりに開催された花火大会の屋台エリアで、ベビーカステラを買い求める列に並んでいた浴衣姿の若いカップルに話を聞いてみた。「こういう時しか見かけないですから、屋台があったほうが雰囲気が出ていいですよ」と笑顔で話してくれた。

 商品の値上げについては「今はいろんな物が値上げしてますから、しょうがないんじゃないですかね。観光地価格だと思えば。この前、某観光地に行ったんですけど、入場料とかご飯の値段がマジ高かった! それに比べれば屋台はまだいいんじゃないですか」と付け加えた。

 世間には「テキヤは暴力団なのか?」という疑問を持つ人も少なくないようだ。それは、テキヤの多くが「○○会」「○○一家」と、まるで暴力団のような団体名だったり、親分子分の約束事があったりするからだろう。また、暴力団が運営する露天商があるとも言われている。だが、テキヤは暴力団ではないと断言したい。

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