夏の風物詩「テキヤ」業界のいま たこ焼きは700円時代、空洞化が進む原因、キッチンカービジネスに参入するケースも 暴対法とは無縁の“スローライフ”

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 主にコロナ禍の影響により、これまで中止や延期されていたお祭りも全国各地で再開となり、庶民や外国人観光客たちにとっても今年は楽しい夏を迎えている。現代のお祭りは祭事や神事だけでなく、イベント的なものも多く、多様性を増すばかりだ。とはいえ、われわれ庶民が持つお祭りのイメージといえば、沿道や参道に建ち並ぶ、たくさんの「屋台・街商・露天商」の賑やかさだ。(作家・ノンフィクションライター・藤原良)

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 お祭りの屋台と言えば「テキヤ」を思い浮かべる人もいるだろう。「テキ屋」や「的屋」とも表記される彼らの起源には諸説ある。

◆お祭り起源説……そもそもテキヤには祭場や縁日で得た収益を寺社仏閣の新築・修繕費に充てるという存在意義がある。お祭りの起源と同じで、古事記(712年)に記されている「天の岩戸隠れの神話」を起源とする考え方。

◆神農説……テキヤは“神農”を敬うことを伝統としている。それは中国の神農皇帝の子孫で日本に帰化した弓月君(ユズキノキミ)が最初に露天商をはじめたと日本書紀(720年)に記されているからで、それに倣って800年頃からテキヤが登場したという説。

◆楽市楽座説……安土桃山時代に盛況となった楽市楽座が始まりという説。

◆江戸庶民文化説……江戸時代の行商人も含め、振り売りや立ち売りをした屋台を源流とする見方。

◆戦後の闇市説……第二次大戦後の物不足の時期に各地で形成された露天商などを中心とした市場で、当時の統制経済下において非合法的に出店するケースも多かった。この店舗の多くは街商・露天商で、これが現在のテキヤの始まりとする見方。

ウクライナ侵攻

 ちなみに「闇市説」に異議を唱える人もいる。実は、1923年、関東大震災の被災者たちにテキヤ団体が受け皿となって職の世話をしたという記録が残っている。また、戦前の1927年には関東のテキヤによって「昭和神農実業組合」が結成されている。この組合の中には現在も一家を継続するテキヤもある。このことから「闇市説」は説得力に欠けるとされている。

 4つの説も、どれが正しいのかは謎多きところだ。とにかく、テキヤは長い歴史を持ち、日本のお祭りには欠かせない存在だ。まさに祭りの風物詩と言っていいだろう。

 そんなテキヤたちも、ここ数年続いたお祭りの中止や延期に歯がゆい思いをしていたそうである。やっとお祭り再開の年を迎えたとはいえ、ロシアのウクライナ侵攻などの国際情勢により、輸入小麦を筆頭に原材料の価格が高騰している。そのあおりを受け、屋台で提供する飲食物も値上げせざるを得ない。

 以前だと、たこ焼き1パック10個入りで450円前後、焼きそばやお好み焼き、若者に人気のベビーカステラなどもワンコイン500円前後というのが全国相場だった。

 ところが今年は一律650~700円が普通となってしまった。ちなみに、公共団体が行う野外イベントに設置されたフードコートを見ると、値上がり率はテキヤとほぼ同じだった。

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