ドン・キホーテが「線香」にナゾの注力 “赤いローソク”の存在がヒントに

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「敦賀は滋賀だから」

 地域ごとの「違い」に配慮し、取り扱いを決める髙橋さんですが、過去にはこんな失敗も……。

「敦賀店をリニューアルしたときのことです。福井県のお店なので、福井エリアで使われることの多い商品を置くべく準備していたのですが、パートさんが『敦賀は滋賀だから』というのです。どうやら同じ福井県でも、木ノ芽峠を境に文化習慣が違うらしく、敦賀では滋賀など近畿エリアで使われることの多い、渦巻線香を置くべきだったようなのです。こうした情報は調べてもなかなか分からないことが多く、地元の方の声に勝るものはないですね」

 こうした線香の品揃えには、ドンキの掲げる「個店主義」のたまもののように思います。全国に店を構えるドンキですが、個々の店舗の裁量が大きく、各店舗の従業員が仕入れや値づけを行うそうです。本部からすれば、やはり管理が行き届かないリスクが生まれるわけですが、結果的には利用者にとって魅力的な店づくりにつながるわけです。

 そしてドンキの線香の“多様性”に関していえば、文化を守るのに貢献したのではと強く感じます。通常、全国チェーンは、マスの視点からの効率や売れ行きにもとづく「全体最適」された売り場作りを行います。もちろんドンキでも、有効な場面では最適化をはかっているので、決して悪いことではありません。しかし、線香のような地味な商品は、土地土地の事情を無視した商品がひとつかふたつ用意されて終わり、となりがち。ドンキの尽力が、線香文化を守る助けになったといえるでしょう。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。

デイリー新潮編集部

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