ドン・キホーテが「線香」にナゾの注力 “赤いローソク”の存在がヒントに
“赤いローソク”での学び
なぜ、ドンキは線香の品揃えにこんなにバリエーションをもたせるのか。売れ筋の商品ならまだしも、線香という大ヒットは出にくい商品を、です。
ドンキを運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの線香を担当するバイヤー、髙橋麻貴子さんが次のように教えてくれました。
「きっかけは、ドンキが総合スーパーの『ユニー』をグループ化したことでした。2019年に完全子会社化したのですが、私が東海エリアの仕入れを担当した時のことです。売り場に、見慣れぬ“赤いローソク”が置いてあるのを見つけました。関東出身なので知らなかったのですが、浄土真宗のご家庭、とくに東海から北陸にかけての地域では、法事、お盆やお正月などには赤いローソクを使うらしいのです。そして同じジャンルで、線香にも、地域ごとにこうした違いがあると知ったのです」
地域ごとの文化習慣
“自分は線香や宗派の専門家ではないので、正確ではないかもしれませんが……”と断ったうえで、髙橋さんはご自身が経験した「違い」を教えてくれました。
「たとえば関西圏では、茶ごま線香という線香がよく使われていて、中でも奈良は少し太めです。また富山県の店舗を担当した初めての年、お盆の月の『墓参セット』の売り上げが通常月に比べて10倍以上になって驚いたことがありました。他の地域では、売れても1.5倍なのに、です。調べてみると、魚津や砺波の地域では親戚やご友人のお墓を複数回る方が多いようなんですね。ひとり一つでは足りず、複数個をお求めになる場合が多いようなのです。また富山は、お墓が大きいというのをご存じでしょうか。湿気を嫌って納骨室を地上に設ける地上納骨が主流であるためです。お墓のサイズに合わせるのか、線香立ても少しサイズの大きいもので、地域の店舗ではそれ用の墓参セットを取り扱っています」
このほか、福井の越前寄りの地域では、ベージュにちかい生成り色の和ローソクを用いるそう。金箔を施した仏壇が多いため、煤が出にくい和ローソクが求められるそうです。
「地域ごとの文化習慣をふまえたこれらの商品の展開は、基本的にユニー、そして旧長崎屋だった店舗で行っています。もともとスーパーマーケットだったこれらの店舗では、ドンキに変わって以降も生鮮品をお求めになるお客様が多くいらっしゃり、一般的な店舗以上に日常使いをされることが多い。そして線香やローソクは、仏壇のあるご家庭では普段から使うものです。アミューズメント型ディスカウントのドンキに変わった途端、これまで使っていたモノがなくなってしまった、というのは良くないと考えたのです。ですから、すべての店舗で取り扱いのある大手メーカーさんに加え、ときに地域の老舗のお店などともお取り引きさせて頂いております。現在では計13社になります」
ちなみに先ほど29県・30のエリアで取り扱いに違いがあるといいましたが、これは同じ静岡県でも、静岡と浜松のエリアで、文化圏がやや異なるため。浜松市出身で親善大使「やらまいか大使」をしている私にはじつにしっくりきます。先のたとえに出した「あんまん」も、静岡県ではセブンはこしあん、ローソンは粒あん、ファミリーマートでは富士市と静岡市を境に変えているなど、静岡は同じ県でも違いがあるんですね。
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