「夏ドラマ」ベスト3 「最高の教師」で「ブラッシュアップライフ」の手法がなぜ使われたのか

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日本テレビ「最高の教師」(土曜午後10時)

 チャラチャラした若者向け作品が大手を振るう中、大真面目な教育ドラマ。高校生のいじめ、ネグレクト(養育放棄)と貧困、心の拠り所などの問題が描かれている。それを解決しようと3年D組の担任教師・九条里奈(松岡茉優・28)が奔走している。

 こう書くと、模範的な熱血教師の物語だが、そうでないのはご存じの通り。九条はタイムスリップをしている。1周目の人生では卒業式の日、D組の誰かに校舎の上階から突き落とされて死んだ。ダメ教師なので恨まれていた。今は2周目の人生。再び殺されないためには教師として最善を尽くしつつ、一方でD組を改革しなくてはならない。

 九条はタイムスリップしているから、いじめられているD組の生徒・鵜久森叶(芦田愛菜・19)が登校拒否になる日が分かっていた。だからモタモタとしているわけにはいかなかった。同じく江波美里(本田仁美・21)がタチの悪い幼なじみに売春させられそうになり、その怒りで相手を刺すことも知っていたので、事前に動いた。

 TBS「3年B組金八先生」(1979~2011年)など過去の学園ドラマは、生徒が問題を起こしてから教師が解決に向けて奔走した。一方、九条は未来が分かっているので、問題を予防するために走り回る。この初期設定の違いは画期的だった。

 視聴者側は“問題解決法を見せる学園ドラマ”しか知らなかったのだ。その解決法は特別授業だったり、クラス討論だったり。一方、九条のやっている教室への監視カメラ設置、生徒らとの直談判などの“予防策”は、長い学園ドラマの歴史の中で初めて観るのである。

 タイムスリップという手段は、同局の冬ドラマ「ブラッシュアップライフ」で使われたばかり。「またか」という声もある。しかし、スタッフはどうしても使いたかったに違いない。問題の予防法を見せ、問題提起することが作品の核心なのだから。

 九条役の松岡は以前からドラマ制作者の間で評判がいい。若いのに演技力があるからだ。確かにうまい。同局の昨年の夏ドラマ「初恋の悪魔」では、狂気を感じさせる2重人格の刑事を巧みに演じた。今回は毅然とした教師。役柄の幅も広い。

 民放連ドラ7年ぶりの芦田も好演している。否が応でも目立ってしまう人だが、D組の1人という設定なので、存在感を抑えているようだ。相変わらず考え抜いて演技をしている。

 D組のボス的存在・相楽琉偉役の加藤清史郎(22)の演技は圧巻の一語。昔からコワイ高校生の代表格は相楽のような男である。道で出くわしたら、目を合わせたくない。加藤は相当、研究したに違いない。

 この手の作品は終盤になるほど注目度が上がる。九条が1周目の人生で突き落とされた顛末や、タイムスリップの真相などが分かるからだ。どこまで盛り上がるか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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