「夏ドラマ」ベスト3 「最高の教師」で「ブラッシュアップライフ」の手法がなぜ使われたのか

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テレビ朝日「ハヤブサ消防団」(木曜午後9時)

 今どき珍しい正統派ミステリー。どこが正統派なのかというと、容疑がかかりそうな人物たち、被害者の各キャラクター、生活環境などをしっかり紹介しているからである。視聴者は推理に興じられる。

 作品の舞台は、中部地方の山間部にある八百万町のハヤブサ地区。ここで放火と思われる4件連続の火事と住民の不審死が起きる。約1000人の住民は動揺する。

 小さなコミュニティが舞台となるミステリーは海外によくあるが、日本では稀少。住民はみんな気心が知れているはずなのだが、誰が犯人なのかが分からない。だから、スリリングで面白い。

 探偵役を務めているのは売れないミステリー作家・三馬太郎(中村倫也・36)。ハヤブサ消防団の一員でもある。東京で暮らしていたが、父親が遺してくれた家が気に入り、引っ越してきた。

 ところが、いざ移住してみると、プライバシーが守れなかったり、噂話が多かったり、灯明当番(神前に献じる灯火を点ける当番)などがあったりで戸惑う。

 しかし、火事が相次いで起こり、親しくなりかけていた地区の嫌われ者・山原浩喜(一ノ瀬ワタル・37)が滝壺で水死すると、誰にも頼まれていないのに真相を調べ始める。ミステリー作家としての好奇心もあっただろうが、それより大きかったのは地元愛。この作品のテーマの1つである。

 事件を整理したい。

(1)2件の火事は太郎の移住前に起きた
(2)太郎の移住後に起きたのが波川志津雄(大和田獏・72)宅の火災。波川と浩喜が不仲という噂があり、それが本当なら浩喜が放火後に自死後したという推理が成り立つが、ウソだった
(3)ウソを流したのは地区でソーラーパネルを売り歩いている真鍋明光(古川雄大・36)
(4)ハヤブサ消防団員・山原賢作(生瀬勝久・62)の家にも火が付けられた。これで4件目。逃げていく男の車の中には団員の帽子があった。団員が犯人か、それとも偽装工作か

 中村は相変わらず演技が抜群にうまい。太郎は気弱で優しい男で、感情を露わにしない。だが、中村は太郎の内なる怒りを静かに表している。オーバーな演技より、ずっと難しい。

 また、地味な太郎のキャラクターだと笑いを取るのが難しいものの、ポツリと毒を吐くことで観る側をクスリとさせている。これが出来るのも中村がうまいから。下手な俳優がやると、滑ってしまい、物語の流れを止めてしまう。

 太郎の担当編集者・中山田洋役の山本耕史(46)はいつも通り怪優ぶりを発揮している。中山田は調子のいいこと、適当なことばかり口にしているのだが、山本の表情や口調が大真面目なので、笑える。

 シリアスなミステリーである分、息継ぎ的な笑いは貴重だ。

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