「夏ドラマ」ベスト3 「最高の教師」で「ブラッシュアップライフ」の手法がなぜ使われたのか

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 夏ドラマの大半が中盤に差し掛かりつつある。評判が高い作品がある一方で、すっかり忘れ去られたような作品もある。その中からプライム帯(午後7時~午後11時)のベスト3を選んでみたい。

TBS「日曜劇場 VIVANT」(日曜午後9時)

 スケールの大きな活劇と数々の謎解きが絡み合った作品。これまでも惹き付けられたが、今後は面白さが増し、失速しないはずだ。

 理由はいくつかある。まず当初は単なる娯楽作と思っていたが、ストーリーが進むに連れ、壮大なテーマの一端が見えてきたからだ。それは「善と悪」である。

 主人公は乃木憂助(堺雅人・49)。商社マンだ。しかし、その真の顔は自衛隊の秘密諜報組織である「別班(べっぱん)」の一員。気弱な善人であるものの、「F」という別人格を抱えている。Fはバルカ共和国で親しくなった医師・柚木薫(二階堂ふみ・28)を同国の砂漠で見捨てようとするなど非情なワルだ。

 国際テロ組織「テント」のモニター(非公然協力者)だった同僚の山本巧(迫田孝也・46)に拷問を加え、殺害したのもF。憂助の人格のままで山本を殺すのはとても無理だろう。憂助が別班でいられるのはFがいるからだ。

 では、どうしてFは存在するのか。まだ全く説明されていないが、これが作品の全体像を読み解くカギになるはず。おそらくFという人格の出現には、憂助の両親(林遣都・32、高梨臨・34)が深く関わっている。憂助は幼いころ、両親とともにテロリストらしき武装集団に襲われた。この一件から憂助がテロを憎悪したことでFが生まれ、別班入りに結び付いたのだろう。

「善と悪」がテーマだと考えれば、人の善悪を無意識のうちに感じ取れるバルカ共和国の少女・ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzu)が作品に存在する理由も腑に落ちる。ジャミーンのこの能力は第1話と第4話の2度も説明された。ストーリーに関わらないはずがない。今後、この能力が発揮されるのだろう。

 第3話までは、憂助のバルカ共和国からの脱出劇をリードした警視庁公安部の野崎守(阿部寛・59)が主人公のように見えていた。しかし、第4話で憂助が別班と分かり、そこにFが加わったキャラクターは強烈なので、もう野崎が主人公のようには見えない。

 堺が抑えた演技をする必要はなくなった。これも今後、より面白くなりそうな理由である。早稲田大学時代から学生演劇界の大スターだった堺の演技力は半端じゃない。

 伏線と謎解きも魅力。この作品は以前に敷いた伏線の回収を待たず、新たな伏線を次々と敷く。伏線を重層化させる。謎もポンポンと投げ掛けてくる。ここまで観る側に考察力を要求する作品は滅多にない。好むと好まざるとにかかわらず、考察作品はもはや国内外でジャンルの1つ。福澤克雄監督(59)は超一級の考察作品を目指しているのではないか。

 第4話でも謎が投げ掛けられた。山本がテントの武装訓練に参加していたことが分かったのは、ジャミーンとその亡父・アディエル(Tsaschikher Khatanzorig)の姿が収められた写真に写りこんでいたからだった。父娘はテントの仲間なのか。

 いや、違うはず。第1話で敷かれた伏線を思い出すと分かる。アディエルは憂助が誤送金を取り戻すため、テントのフロント企業であるアマン建設に行くと聞いた途端、表情を曇らせた。テントの仲間なら、こんな顔をしない。

 写真を見てもアディエルがテントの仲間でないことが分かる。アディエルとジャミーンたちは民族衣装。山本らテントは軍服だ。一線を画している。過去になんらかの形で接点があったに過ぎないだろう。

 伏線も謎解きも多いが、視聴者を騙すようなトリッキーなものはないのがこの作品の特徴。フェアだ。これも福澤監督の方針からだろう。

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