75年ぶりに新しい路面電車が誕生 LRT新時代は到来するか?
今年8月26日、栃木県宇都宮市と芳賀町を結ぶ新しい路面電車が開業する。日本国内において純然たる路面電車が新設されるのは75年ぶりとなる。
路面電車という言葉からイメージするのは、2005年に公開された映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に描かれたような、昭和30年代に全盛期を迎えた都電あたりだろうか。ゆっくりと街を走る都電は情緒的で昭和の乗り物といった懐古的な郷愁を誘うが、宇都宮で新しく走る路面電車はそうした昭和を想起させるような公共交通ではない。
近年、路面電車を進化させたLRT(=Light Rail Transit)と呼ばれる公共交通機関がヨーロッパを中心に新増設され、その潮流は日本にも2000年頃から押し寄せていた。
「富山ライトレール」に続かず…
富山県富山市は2006年にJR西日本が運行していた富山港線を譲り受け、同線を路面電車へと転換。富山ライトレールという路面電車へと姿を変えた。富山ライトレールは単にJR線を路面電車に置き換えただけではなく、日昼帯の運行本数を約15分間隔 に設定。さらに、停留所の数も大幅に増やして停留所の間隔を短くした。
こうした取り組みによって、富山ライトレール沿線の利便性が向上したことは言うまでもないが、富山ライトレールに触発された全国の各都市が次々とLRTの導入を打ち出した。この現象が路面電車ブームとも路面電車再評価の兆しとも言われるようになるが、残念なことに、このときにLRT導入を表明した都市で、新たに路面電車を開業させた都市はない。
LRT構想が次々と浮上したにも関わらず、実現までに至らなかった。なぜ、ブームになったLRT構想が実現しなかったのか? その理由はいくつか考えられる。
「駅前に動線、意味がある?」
大きな理由としては、LRTは単なる鉄道網の整備という枠組みにとどまらず、私たちのライフスタイルをはじめ都市構造を大きく変えてしまうからだ。
地方都市ではマイカー利用を前提としたライフスタイルが定着し、それに応じた都市構造へと変化している。公共交通機関では行くことが困難な郊外には、大型のショッピングモールが次々と誕生。マイカーを前提としたライフスタイルなら、こうした郊外の大型店の方が便利だろう。
自治体がLRT導入を表明しても、駅を中心とした都市構造へと戻すことが求められる。すでにシャッター街と化した駅前に動線を集めたところで意味があるのか? そんな声は、あちこちから聞かれる。そのほかにも実現にはクリアしなければならないハードルが無数にあり、それらの反対を押し切り、さらに莫大な税金を投じてまでLRTを整備する――ブームに乗じてLRTの導入を打ち出した自治体に、そこまでの固い決意があったのかは疑わしい。
そのため、路面電車ブームの中でも2009年に富山地方鉄道が軌道線(路面電車)の環状線化を果たし、2012年には北海道札幌市の札幌市電が約440メートル延伸して環状線化した。そんな小さなトピックスがいくつかあったぐらいで、それらは地元民や鉄道ファンには関心を持たれたぐらいにとどまった。
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