甲子園、酷暑でのプレーは虐待か? ファンは「高校球児が涼しげだとビールがまずい」、球場に屋根を付けない理由とは
ドーム化の利点
「東京ドームは、当時の日本の建築の概念になかった建物です。テント生地の表裏にテフロン加工を施した屋根。アメリカのメトロドームがお手本です。通常のテント生地はすぐ劣化しますが、テフロン加工すれば耐久性が約20年にもなる。私たちは法律に想定のない素材を使う場合の条文を活用して、建設を許可しました。
積極的に東京ドーム建設を後押ししたのは、大規模な室内施設が社会的に求められている、役に立つと判断したからです。当時は5万人も入れる室内競技場はありませんでした。日本武道館は1万4千人規模。調べたら、武道館と言いながらコンサートの利用が多い。後楽園もドームにすれば野球以外の活用が広がって価値も上がる、収益も増えると想定できました。その効果は、雨天中止で無駄になる弁当代が浮くレベルじゃないとわかったのです」
ドームの価値が一般に広く理解されるには時間がかかったが、東京ドームが完成した後、異変が起きた。
「ドームを運営する後楽園スタヂアムの株価が80円から3千円にはね上がったのです。驚きました。市場経済はきちんと理解して反応するんですね」
東京ドームは、投資リスクをはるかに上回る成果と評価をもたらした。
「甲子園もアルプス席に屋根を付ける程度より全体に屋根を付けた方が投資効果は高いでしょう。あとはカーボンニュートラルへの配慮でしょうね」(森氏)
透明素材を開発
ネットで検索すると「甲子園に屋根を付けよう」という案はファンの間でも語られている。だが、屋根を付けると天然芝の生育が難しい。人工芝にするしかないのが問題だと指摘されている。ところが、
「天然芝が育つ透明素材の屋根も開発されています」
と教えてくれたのは、中規模の室内テント施設建設で日本最大手の今泉テント株式会社・今泉知久社長だ。
「サッカーW杯カタール大会のメイン・スタジアムの屋根がそれです。透明で、ピッチは天然芝でした。見上げればそこは青空です。この素材は紫外線を通す割合を調整できるので、人の不快感を軽減させ、植物に必要な紫外線は通す。1平方メートル800グラムと軽い。鉄の屋根に比べたら20分の1程度です。甲子園に限らず、この素材を活用した室内球場ができれば、猛暑は相当軽減できるでしょう」
実際に見せてもらった。遠くからは透明に見えるが、中に格子状の糸が組み込まれ補強されている。この糸が特殊素材で紫外線にも劣化しない、耐用年数30年。フランスで開発され、日本での素材認定はこれからだ。
玉木氏は提案する。
「甲子園とまったく同じデザインのシン甲子園球場を涼しい場所に造ったらいいんです」
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