甲子園、酷暑でのプレーは虐待か? ファンは「高校球児が涼しげだとビールがまずい」、球場に屋根を付けない理由とは
「ビールがまずくなる」
夏に開催する方針は、主催者だけの判断ともいえない。高校野球の現場も、世間も概ね支持しているようだ。
私が講演会で猛暑の問題を語った際、質疑応答で次のような反論を受けた。
「自分はクーラーの効いた部屋でビールを飲みながら高校野球を見るのが大好きです。テレビの中の高校球児が涼しげだったらビールがおいしくないでしょう」
案外それが高校野球ファンの素直な実感なのだろうと思った。互いに目を背け合ってジャニーズの性加害問題をないものとしていたメディアと世間の共犯関係は、高校野球にも存在している。
慣習は容易に変えられない
視点を少し変えて考えてみよう。一橋大学の坂上康博名誉教授(スポーツ史)は、拙著『真夏の甲子園はいらない』の共編者でスポーツ文化評論家の玉木正之氏との対談で語っている(「ZAITEN」23年6月号)。
〈NHKという巨大メディアが、たかが高校生の部活動を、それも野球だけをなぜあれだけ長時間放送するのか? それは普通に考えて「謎」としか言えませんよね〉
〈惰性や慣習には、それを守る強い力が、意味なく働くのです〉
私はNHK広報課にも7月11日、次の質問状を送った。
〈現在、全試合中継しておられる高校野球「春の選抜大会」および「夏の選手権大会」の実況中継を取りやめる検討をされたことはありますか。いまその検討はされていますか〉
もしNHKが高校野球の全試合生中継をやめたら、さまざまな問題の多くが自ずと解消するのではないか?
7月20日、NHKからメールで回答が届いた。
〈現在、NHKとして高校野球の実況中継をとりやめることは検討しておりません。他のスポーツも含めて選手等の健康面への配慮は必要であり、大会関係者等の意向も確認しながら対応してまいります〉
慣習を変えるのは容易ではない、という坂上氏の指摘そのものだ。
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