甲子園、酷暑でのプレーは虐待か? ファンは「高校球児が涼しげだとビールがまずい」、球場に屋根を付けない理由とは

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金属バットの導入は即決

 田名部氏の話を聞くと、日本高野連が頭の固い組織でなく、意外にさまざまなアイデアをめぐらせ、斬新な案も取り入れる柔軟さを持っていることに驚かされる。

「佐伯会長は柔軟な人でした。ボールひとつとっても分かるでしょう。日本高野連には公認球ってないんです。いまでも各都道府県が独自に使用球を決めている」

 実際、各地域で使用球は違う。ミズノ、松勘、サンアップ、イソノ、ゼット、SSKなど、なるほど多種多様だ。

「終戦直後、ボールが十分に用意できなかった名残です。努力してボールを供給してくれたメーカーへの感謝がある。公認球にすれば公認料が必要になる。日本高野連は一切頂戴していません」

 地域毎にバラバラな球技は確かに珍しい。

「即断即決すべきことと、時間をかけて全国の意見を聞いて詰めていくもの、両方があるのと違いますか」

 田名部氏が言う。即断即決の好例は「金属バットの導入」だ。

「佐伯さんは、お金がかかりすぎれば高校野球は普及しないと考えておられた。だから金属バットの導入はすぐ決断されました」

 73年6月、ハワイ州選抜チームが来日に際して「金属バットを使いたい」と打診してきた。日本高野連は、金属バットって何?となった。この情報に鋭く反応したのが佐伯会長だ。この年の秋、日本は石油ショックに見舞われる。環境や資源に対する意識が急速に変化する中、採用までのスピードは驚くほど速かった。秋には実験的に使用され、翌春から採用されたのだ。

 近年では、来春から採用される「低反発バット」も同様だ。4年前の夏、甲子園で投手の顔面を打球が直撃した。それ以前から打球速度の上昇は問題視されていたため、ほぼ即断で低反発バットの導入が内定した。

「もっと早く採用する予定でしたが、コロナ禍で試験をする施設が閉鎖され、遅れたのです」(田名部氏)

「夏休みに甲子園でやる」が大前提に

「改革派」の一面もある日本高野連だが、「夏からの移行」については動きが鈍いどころかかたくなに拒んでいる。改めて日本高野連に次の質問を送った。

〈想定される不測の事態に備え、開催時期を8月から他の季節に移す検討はしておられるでしょうか。時期の変更は想定されていないのでしょうか。環境省が推奨する暑さ指数(WBGT)の指針を無視される理由と根拠を教えてください〉

 7月19日付で回答文書が届いた。

 概ね前回の回答を踏襲したもので、「暑さ指数を無視する根拠」についての明確な記載もなかった。回答は次のとおりだ。

〈暑さ対策については、出来る限りのことを球場側および医療関係者などとともに実施しておりますが、今後もさらに検討していきたいと考えています。天候・雨雲・雷の動向・暑さ指数(WBGT)などとともに専門家の意見を参考にして、大会運営を行っております。(中略)

 選手権大会を含め、高校野球の大会は部員の学業に支障がない期間に開催することを原則としています。

 阪神甲子園球場でプレイすることを目標に日々活動している高校生の思いを大切にしながら、無事に大会を開催できるよう、最大限の努力をしています〉

 酷暑を避けて時期を移行する検討こそ「可及的速やかにすべき最優先課題」と私は思うが、朝日新聞と日本高野連は「夏休みに甲子園でやる」ことを大前提とし、時期を動かす検討はしていないことがこの回答でいっそう明確になった。

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