「助っ人」「新外国人」という言葉が日本の野球界をダサくしている あまりにも失礼で廃止すべき呼称では(中川淳一郎)

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 先日若い女性と喋っていたのですが、「藤浪被弾」というネットのニュースを見て仰天していました。オークランド・アスレチックスからボルティモア・オリオールズに移籍した藤浪晋太郎投手のことです。オリオールズでの初戦で初球をホームランにされたのです。オッサンは野球用語における「被弾」は「ホームランを打たれた」と分かるわけですが、それ以外の方からすれば「鉄砲で撃たれた」と解釈するわけです。「藤浪さん、命は大丈夫なんでしょうか……」と心配げ。

 その用語を説明すると「えぇ~、そうだったんですか!」と驚かれました。となると、野球用語というものはけだしヘンテコな用語だらけだと改めて思うわけですね。まず、外国人選手については「助っ人」と呼びますが、これは本当に失礼で廃止すべき呼称です。だって、チームの一員なのに、「助っ人」と呼ぶことは「ソト」の人として呼んでいるとしか思えない。日本人のチームメイトと和やかにしているのに「助っ人」呼ばわりは日本人選手も「その言い方、やめてくれよ。ラミちゃん(アレックス・ラミレス氏のこと)はオレらの仲間だ」なんて思うことでしょう。

 さらに「新外国人」もおかしい。普通に「新戦力」「新加入選手」でいいではないですか。「新人」は普通に使われますし、「新加入の〇〇選手」も使われる。それなのになぜ「新外国人」をいちいち使うのか?

 コレが日本のプロ野球をダサくしている一因だと思うんですよ。EU圏内のサッカーチームでも当然非EU圏の選手の出場枠を限定している例はありますが、別に外国人選手だろうが、自国選手だろうが、活躍すれば同じように絶賛する。それなのに、野球では永遠に外国人選手を外様扱いし続ける。

 そこで実は先端的だな、と思うのが、大相撲です。何しろ、横綱・大関がモンゴル出身者だらけでも「国技」として満員御礼が続くし、「〇〇部屋の助っ人」なんて呼び方はしない。かつてはハワイ出身の小錦が「ワシが外国人だから横綱にさせてもらえない」みたいなことを言って物議を醸したことがありますが、今やそんなことはない。旧態依然とした業界と捉えられがちな相撲業界ですが、国際化においては案外先端的なのです。

 話は野球用語に戻りますが、実に殺伐としている。「補殺」「盗塁」「死球」「捕邪飛」「犠牲バント」「犠飛」などと聞くと戦争しとるんか?とさえ思えます。こうした言葉は野球関連報道で頻繁に見るわけですが、一般的感覚からすれば冒頭の彼女のように意味が分からないかもしれません。「死球」なんて、誰かを殺すボールじゃねぇかよ、と思うでしょう。英語ではhit by pitch(ぶつけられた)と言うことが多いわけで、決して「死ぬボール」というワケではありません。大袈裟なんですよ。私のように野球をけっこう見ている人間でも「おっつけて打つ」とかは意味がよく分からない。

 それにしても野球選手が不倫をすると「夜のバットは絶好調」「夜のスピードスター」「夜の三冠王」などと週刊誌やスポーツ紙からは書かれるの、何なんですかね? 記者は絶対に楽しんでるな(笑)。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年8月10日号掲載

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