夏の甲子園はホロ苦デビューも…立命館宇治“195cm右腕”「十川奨己」はダルビッシュに迫る投手になる「潜在能力」を持っている 

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「早いうちからプロに行った方が良い」

 パ・リーグ球団スカウトは、十川をこう評している。

「195cmも身長があって、あれだけバランス良く投げることができれば、現時点では何も言うことはありません。あとはしっかり鍛えていけば、いくらでも良くなるでしょう。(立命館)大学の系列の高校ですが、タイプ的には(大学に進まずに)早いうちからプロに行った方が良いと思います」

 スカウト陣は、夏の甲子園で、翌年以降の候補になる下級生をそれほど熱心に見ていないことが少なくないが、この日のスタンドでは、十川の投球の映像を撮影し、スピードガンを構える姿が多く見られた。それだけプロ側が、十川のポテンシャルが高いと見ている証拠だろう。

 十川は、自身のフォームについて、自分で考えて作り上げてきたものだという。

「ピッチングフォームやピッチング全般を参考にしているのは、自分の兄です。兄からはバランスを大事にすること、体が大きい分、それを扱うのは他人よりも難しいというのはずっと言われていました。兄も背が高くて、野球をやっていて、自分で経験したことを伝えてくれるので、信憑性が高いというか、信じられると思って参考にしてきました。この1年はフォームを固めることを意識してやってきて、中学の時と比べると、だいぶ安定してきたと思います。ただ、全国のレベルでは、まだまだ通用しないことが分かりました。身長の伸びも止まったので、これからはウエイトトレーニング、食事などしっかり取り組んで、筋肉量をつけていくことをもっと重点的にやっていきたいと思います」(試合後のインタビュー)

来年は「甲子園2勝」を達成したい

 冒頭で触れた大谷や佐々木朗希(ロッテ)は、高校時代に体がまだまだ成長段階にあった影響で、体も細く、トレーニングを十分に積むことができない時期があったという。

 十川も同じような経験を積んできているようだが、こうした期間にしっかりとフォーム固めに取り組んで、欠点のない投げ方を身につけたことは、今後の成長を考えると、大きなプラス材料である。前述のコメントにもあるように、本人はフィジカル面の重要性を認識しており、頼もしい限りだ。身長に見合う筋肉量が身についた時は、驚くようなボールを投げるようになる可能性も高い。

 最後に「1年後にどんなピッチャーになりたいか」という問いに対して、十川はこう答えている。

「今年は3年生に甲子園に連れてきてもらったので、来年は自分が中心となってチームの目標としている『甲子園2勝』を達成したいと思います。ピッチングについては、持ち味である打たせてとる投球だけではなく、重要なところでは三振を奪えて、野手になるべく負担をかけない形で勝てるようになりたいです」(同)

 意気込んで臨んだ甲子園のデビュー戦で、打ち込まれたショックも少なからずあったはず。しかし、悔しさをにじませながら、冷静に敗因を分析して、課題や今後の展望について話す様子からは、ただ体格が恵まれているだけでなく、しっかりと考えて野球ができる選手という印象を受けた。

 本人の話すような課題を克服した時、“本家ダルビッシュ”に迫るような投手が誕生することも十分に期待できそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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