迫る「市川猿之助」初公判 専門家が指摘する「それでも猿之助事件が終わらない」理由

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 両親の自殺を手助けした自殺幇助容疑で逮捕・起訴された市川猿之助被告(47)は、保釈後のいまも都内の病院に入院したままとされる。初公判に向けての準備が進むなか、専門家が改めて猿之助の人物像をプロファイリング――。謎が残る事件の「核心」に迫った。

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「精神科医の立場から猿之助被告を見ると、大きな特徴としてまず『完璧主義』で、『強い責任感の持ち主』という点が挙げられます。通常は“美徳”と見なされがちな資質ですが、言葉を換えれば“100点満点じゃないと意味がない”と、物事を“ゼロか100”の思考で捉えがちなタイプです。同時にコインの裏表のように、高い特権意識と想像力の欠如といった面を併せ持っているケースも多い」

 こう話すのは精神科医の片田珠美氏だ。事件が起きるまで、猿之助被告は役者としてだけでなく、主演舞台の脚本や演出まで手掛け、歌舞伎界では「“天才肌”として誰もがその才能に一目を置いていた」(スポーツ紙記者)とされる。

「歌舞伎界の名門である澤瀉屋の頭領として“自分は特別な存在だから、多少のことは許される”といった慢心もあったでしょう。さらに“相手が気分を害しているかもしれない”と想像力を働かせられなかったことが、報道にあるパワハラや性加害問題を生む土壌となった可能性は否定できません。猿之助被告に関するこれまでの報道を分析すると、今回の事件が『単独自殺』でなく、両親を巻き込んだ『拡大自殺』未遂となった背景に2つの要因が見えてきます」(片田氏)

 一つ目が、前述の「強い責任感」に起因するものだという。

5人殺害でも「一家心中」認定

 片田氏によると、過去に起きた一家心中事件では、一般的な感覚からは理解しがたい“責任感”に端を発し、拡大自殺へと至ったケースは少なくないという。たとえば2005年に岐阜県中津川市で起きた一家心中事件では、父親(当時57)が実母(同85)と自身の長男(同33)、そして長女(同30)とその二人の子供を殺害。公判で明らかになったのは、自分の妻に対する実母の執拗な嫌がらせが動機となり、当初は母親を殺したあと自分も死ぬつもりだったが、「残された家族が(殺人者の子供として)つらい思いをする」との理由で4人を殺害したという。

 一方、事件は妻のいない日に決行され、「(母の仕打ちに)よく耐えてくれた。好きだった」妻だけは殺さなかったと説明。殺人罪などで起訴されたものの、1審・2審とも殺人でなく「一家心中」だと認定して、無期懲役刑が確定した。

「中津川事件の犯人と同じく、猿之助被告も“一家の大黒柱”としての自覚が強いがゆえに、高齢の両親を残して、自分だけが先に逝くわけにはいかないという“責任感”から拡大自殺をはかった節があります。さらに2つ目の要因として、猿之助被告の家族に強い一体感があったことが拡大自殺を容易にしたと考えられます。もともと澤瀉屋を背負う猿之助被告に対する家族の期待と信頼は厚かったと伝えられ、なかでも母親は猿之助被告を溺愛していたと報じられています。認知症を患っていたという父親の意志に関しては公判で焦点として浮上するでしょうが、家族に強い絆があったことは確かと考えます」(片田氏)

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