正統派ミステリー「ハヤブサ消防団」の謎と考察ポイント 一連の事件の深層にあるものは何か
物語の深層にあるのは「地縁・血縁」
それ以外のナゾと考察ポイントを挙げたい。
(1)太郎の亡き父親・野々山勝夫のアルバムに、山原倫子の写真が収まっているのはどうしてなのだろう。ポイントになりそうなのが、母娘の名字が賢作、浩喜と同じ山原であること。賢作は展子の写真を見て「知らんなぁ」と首を捻っていたが、付き合いのなかった親戚の可能性がある。賢作のツテを辿ると、母娘の正体が分かるのではないか。
映子と勝夫の名字が野々山で一緒であるところも気になる。やはり親戚か。映子と勝夫の関係が、アルバムに展子の写真が挟まれている理由と結び付くと見る。
(2)第2話で太郎の家のポストにシャクナゲの花を入れたのは誰か。また目的は何なのか。シャクナゲの花言葉は「威厳」「荘厳」だが、有毒植物であるため、ほかに「危険」「警戒」という花言葉もある。
同じ第2話で、彩は浩喜が死んでいた滝壺に花を手向けた。これもシャクナゲ。こちらでは浩喜を讃えて、「威厳」「荘厳」を意味しているのではないか。彩は浩喜の無実に関わっており、やはり第2話で「またどこかが放火されれば浩喜さんの無実が証明されますね。」と発言。太郎をギョッとさせた。
彩は浩喜が死に至った理由を知っていると読む。浩喜に贖罪意識がある。また、太郎の家のポストにシャクナゲを入れたのも彩で、一連の事件について調べることは危険だと告げているのだろう。
(3)八百万町長・村岡信蔵(金田明夫・68)はハヤブサ地区に冷淡なように映るが、どうしてなのか。第2話の消防操法大会でハヤブサ消防団が放水ミスを犯し、村岡に水を浴びせると、「さすがハヤブサのやること」と嫌味を言った。消防団を非難するのではなく、地区を貶した。以前から因縁があるような口振りだった。
また、太郎が脚本を書いたハヤブサ地区の町おこしドラマは、課長まで決裁が下りていたにもかかわらず、村岡が自分のところで不許可にした。行政の常識からすると、考えにくい。地区に恨みがあるのか。
一方で彩はドラマ制作に執着している。ドラマは白紙になったが、それを太郎らに伏せている。自分が監督をやるとウソまで吐いた。地区内に聖地があるから諦めたくないのか――。
この物語の深層にあるのは「地縁・血縁」にほかならない。まず太郎は多くの作品に地縁・血縁が絡む横溝正史の再来という触れ込みで作家デビューしたことになっている。また、第3話では太郎が彩に向かって「横溝先生の足元にも及びません」と言った。作品が横溝を意識している表れだ。
太郎が事件の調査を進めるうち、「地縁と血縁とは何か」が浮かび上がるのだろう。古いようで新しいテーマだ。地方で暮らす限り、この2つの縁からは逃れられない。
これまでのところ物語に矛盾や綻びはない。正統派ミステリーと呼ぶのに相応しい。出演陣の顔ぶれと作風から、年配層のウケがいいが、コア視聴率(13~49歳の個人視聴率)も上々だ。
日本のドラマ界は正統派ミステリーづくりに消極的で、海外作品のパクリや法を捻じ曲げてしまう作品が我が物顔をしているが、「ハヤブサ消防団」がその潮流をガラリと変えるかも知れない。