コロナ情報の拡散に使われた「#PR」の違和感 法律上は問題ないけれど(古市憲寿)

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 SNSで「#PR」という表記を見たことはないだろうか。芸能人などの投稿に「昭和レトロな旅館最高でした。#PR」「男女問わず使えるナチュラルコスメです。#PR」といったように、さりげなく「#PR」がついている場合がある。これはその投稿が広告宣伝の一環であることを示している。

 かつてステマ騒動があった。企業がお金を払ってインフルエンサーに商品を渡し、SNSに投稿してもらう。テレビCMと違って、まるで本当に本人がその商品を気に入っているように見える。この手法がステルスマーケティングなのではないかと問題になった。

 その後、業界の自主的な対応として企業が広告を依頼する場合は、「#PR」や「#広告」といった表記を付記するのが一般的となった。今年の10月からは景品表示法上の不当表示とされ、国としてもステマ規制に本腰を入れる。

 この「#PR」表記だが、インフルエンサー間のマウンティングに利用されていたりもする。「自分はこんなブランドから影響力があると認められています」という証しになるからだ。

 中にはほとんどの投稿が「#PR」に満ちている有名人もいる。ひとたびゴルフへ行けばクラブはもちろん、日焼け止めやアウトドアにぴったりのショーツを紹介したりと大忙し。さすがに愛犬と散歩する様子には「#PR」がついていないものの、「もしかしたらこのワンちゃんも」と疑ってしまうほどの連日のPRぶりだ。

 若い消費者はこうした企業の手法にとっくに慣れている。仮に「#PR」であっても文面から熱量は伝わってくる。またYouTuberやTikTokerも、企業から依頼される宣伝を「案件」と呼び、魅力的なコンテンツにしようと腐心している。商品やサービスの内容がより的確に伝わるという点で、これまでの一方的なCMよりも優れている場合がある。

 興味深いことに、国までが「#PR」を使ったプロモーションを実施している。

 今年の5月8日から新型コロナウイルス感染症は5類感染症となった。ニュースでも散々報じられた事実を「#PR」を使って拡散しようとしているようなのだ。

 ある著名人のSNSに以下のような投稿が。「5月8日から感染対策は個人の判断が基本になりました! #PR」。リンク先から判断するに、内閣官房の「案件」のようだ。「#PR」を遡っていくと、かなり前からコロナ情報の啓蒙にインフルエンサーを活用している。

 法律上、何の問題もない。インフルエンサーに支払う金額は、相場から考えて数十万円だろうから、テレビCMやウェブ広告よりははるかに安上がりである。

 だが国が本気でコロナ情報を伝えたい場合、もっと他にできることがあるだろう。この3年間のコロナ対策は適切だったのか、なぜ社会の正常化が多くの国よりも1年以上遅れたのか。インフルエンサーの笑顔でごまかすのではなく、きちんとした総括が待たれる。ちなみにこの原稿は内閣官房をはじめ一切のPR案件とは無縁である。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年8月10日号掲載

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