わずか1ヶ月の不倫で16年間の家庭生活がズタズタに…46歳夫は「妻と向き合うのは怖い。でも義父の温かさには応えたい」
前編【妻に命を救われ、義父の助けで再就職…「幸せに麻痺していた」46歳夫はなぜ不倫相手に同化し、のめり込んだのか】からのつづき
北海道出身の谷本凌大さん(46歳・仮名=以下同)は、就職に失敗したのを咎められたことを理由に両親と絶縁し、生きる理由を失って日々を過ごしていた。電車に飛び込もうとした彼を救ったのが柊子さんで、義父のはからいにより転職、柊子さんと結婚して二人の子どもに恵まれた。そんな凌大さんが「16年間の信頼のすべてを失った」と語る恋とは。
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「去年の秋、恋に落ちたんです」
凌大さんはふいにつぶやいた。幸せな家庭があったのに、何の不満もない人生を送っていたのに。
人はなぜ恋に落ちるのだろう。どうしてもこの相手を手放したくないという狂ったようなあの熱情はどこから来るのだろうか。分別のある大人なのに、我を失ってしまうのはなぜなのだろう。
「あの人に会って一目惚れしました。そんなことが自分に起こるとは思っていなかったから、最初に僕自身が戸惑った。でも好きでたまらなかった。とにかく彼女に会いたい、言葉を交わしたい、抱き合いたい。その思いが強くて立ち止まっていられない」
そう言ってから、彼はふと考え込んだ。
「いや、違いますね。そんなふうに言葉で気持ちを認識することさえできなかった。僕の中で何かが狂ったんだと思う。恋って、脳のバグなんじゃないかと今は感じますね」
「あのころの僕みたいだった」出会い
出会いは街なかだった。秋になっているのに残暑厳しい日だった。ランチ時、外に出ると前を歩く女性がふらふらしているのに気づいた。近くまで行くと、彼女が大きく傾いた。彼はとっさに支えた。そのまま救急車を呼び、彼が病院まで付き添った。
「貧血と熱中症だったみたいです。病院に運ぶまでには意識もしっかりしてきて……。家族に知らせると救急隊員が言うと、彼女は『家族はいません。この人と話したい』と。僕は会社に戻るのが遅れると連絡をして、彼女に付き添いました。昔の自分を思い出していたんです。彼女からは生きる気力が感じられなかった。柊子に救われた、あのころの僕みたいだった……」
点滴をしている彼女のそばにいると、彼女はお礼を言ってから「私、いつ死んでもいいと思いながら歩いていたんです」とつぶやいた。やっぱりそうかと彼は思った。
夫と、同居する義母から精神的なDVを受けていて、心がすり減っていると彼女は語った。救急車で運ばれたことがわかったら、何を言われるかわからないと泣いた。点滴を打ってもらって少し元気になった彼女は、すぐに病院を出たがった。医師の許可をもらってふたりで病院を出て、彼女を遅いランチに誘った。
「肉のおいしい店があったので、ふたりでステーキランチを食べたんです。彼女はペロリと平らげて『私、ふだんは少食なのに』と笑った。その笑顔に心が乱れました」
凌大さんは日を改めて彼女、紗絵さんに会って話を聞いた。彼女は40歳、会社の先輩だった人と結婚して14年、夫の希望で会社を辞め、今はパートで働いていること、13歳のひとり息子がいること、その後は2回も流産し、夫と義母に「役立たず」と言われていることなどを涙ながらに話したという。
「最近では息子まで、彼女のことを『お母さんはいてもいなくてもいい存在』だと言っていると。夫と義母がそう吹き込んでいるんでしょうね。せつなくて僕も泣けてきました。あの日の前夜も、夫から『おまえは金遣いが荒い』と怒られたそうです。自分のものは結婚以来、ほとんど買ったことがないのにって」
同情という感情ではなかったと凌大さんは言う。「同化」だったのだろう。紗絵さんに同化してしまったとき、彼の心に炎が燃え上がった。純粋に「恋」と言っていいかどうかはわからない関係だが、彼にとっては「恋そのもの」だった。
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