大阪桐蔭が出なくても大阪代表は強い…「履正社」が夏の甲子園でみせた“誇り高き戦い”

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トレーニングや栄養管理を重視

 夏の甲子園でベンチ入りしている20人のメンバーを見ると、関西以外の出身選手はわずか2人だけ。高校野球では、全国から有望な選手を集めるチームが批判されることも多いが、履正社は、地元出身者だけでも能力の高い選手が集まれば、強いチームを作り上げられることを証明している。

 もちろん、中学時代に能力の高さを見せていた選手をかき集めただけで、甲子園で勝てるわけではない。関西の大学野球部関係者は、以下のように解説してくれた。

「前任の岡田監督の時から、トレーニングや栄養管理をかなり重視しているようです。入学した時に、技術はあるけれど、体はまだまだ細いような選手が、1年経つと見違えるほど、たくましくなって、プレーも力強くなることも多いですね。どのチームもこうした面を重視していますが、履正社は特に充実していると思いますね。前任の岡田さんも、東洋大姫路の監督に就任してから、トレーニングや栄養管理の改善に着手していました。昔は“根性だ”と、とにかく厳しくやっていた時期もあったそうですが、それで結果が出なくて、今のようなやり方になったと聞いています」

 筆者が、甲子園での取材で、履正社のスターティングメンバーを確認したところ、身長が180cmを超えた選手は一人もいなかった。これは、強豪校の選手ではあまりお目にかかれないことだ。だが、彼らの体格は筋肉がついて堂々としており、しっかり鍛えられてきたことがうかがえた。技術的に潜在能力が高い選手を、よりよい環境で成長させるサイクルが機能しているからこそ、鳥取商戦で見せたような高いパフォーマンスが発揮できたといえるだろう。

“大きな壁”を乗り越えた誇り

 記事前半で、多田監督が甲子園初陣となった選抜で初戦敗退したことに触れたが、近年は、甲子園で結果を残した監督が交代すると、低迷するチームも目立っている。高校野球の関係者の間では、多田監督も同じ轍を踏まないのか、不安視する声があった。

 しかしながら、筆者が選抜での戦いぶりを取材すると、選手個人の能力の高さを感じさせるプレーが多く、チームが弱くなったという印象は全く受けなかった。これは、“カリスマ性を持った監督”による力ではなく、しっかりとした“メソッド”として強化法が、履正社に根付いている証拠といえる。

「春(の選抜で)に悔しい思いをした分、5月、6月と必死に練習してきた成果が今日出たと思います」(多田晃監督、試合後のインタビュー)

「大阪桐蔭という全国的にもトップのチームがいる中で、そこに勝たないと甲子園に行けないという環境でずっとやってきました。(大阪大会の)決勝でその大阪桐蔭を倒して出場しているという誇りを持って、この後もプレーしたいと思います」(先発した増田、試合後のインタビュー)

 多田監督が語るように、鳥取商戦では選抜の時に比べて、プレーの質など細かい部分もレベルアップしてきたことは間違いない。そして、エースの増田が強調した、大阪桐蔭という“大きな壁”を乗り越えた誇りも、2度目の全国制覇をめざすうえで、大きな武器になっているようだ。

 次戦の相手は、初出場ながら、見事に初戦を突破した高知中央(高知)。「大阪桐蔭が出なくても、大阪代表は強い」。そう感じさせる履正社の戦いぶりをまた見せてほしい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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