大阪桐蔭が出なくても大阪代表は強い…「履正社」が夏の甲子園でみせた“誇り高き戦い”
4年ぶりの“聖地”
8月7日に行われた夏の甲子園大会2日目は、智弁学園(奈良)や愛工大名電(愛知)など、いわゆる“甲子園常連校”が多く登場した。その中でも別格と言える強さを見せたチームが、大阪大会で大阪桐蔭を破り、4年ぶりに聖地に帰ってきた履正社だった。【西尾典文/野球ライター】
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対戦相手は、2年連続出場の鳥取商(鳥取)。履正社は、鳥取商を5安打に封じて、6対0で見事な勝利を飾った。
履正社打線は効果的に得点を重ねた。1回に4番の森田大翔(3年)のスリーランで先制すると、7回には3安打を集中させて3点を追加する。投げては、先発で左腕の増田壮(3年)が7回を被安打4、8奪三振で無失点と試合を作り、8回は同じく左腕の福田幸之介(3年)、9回は高木大希(2年)と繋ぐ完封リレー。増田は、球速こそ140キロには届かなかったものの、変化球は抜群の精度を誇っていた。福田は143キロ、高木は147キロをそれぞれマークするなど、投手陣の層の厚さを示した。
履正社・多田晃監督は、試合後のインタビューで、以下のように試合を振り返っている。
「森田は大阪大会から調子が良かったので、初回に何とか得点をとりたいところで打ってくれて、本当にうれしいスリーランでした。インコースを打つのが得意なので、森田らしいホームランだったと思います。(投手陣については)今日は継投で行こうと考えていましたが、先発の増田が気持ちを出しながらも、落ち着いて投げていたので、安心して見ていられました。福田も本調子ではなかったですが、心配していませんし、高木も腕を振って投げていい球が来ていました。(今後も)3人を軸にして、回していきたいと思っています」
多田監督は昨春、前任の岡田龍生氏(現・東洋大姫路監督)からチームを引き継いだ。今年の選抜では、初戦で高知に2対3で逆転負けを許した。その悔しさをバネに、大阪大会を勝ち抜き、決勝で宿敵・大阪桐蔭を3対0で倒して、再び甲子園に戻ってきた。鳥取商を寄せ付けなかった今回の勝利は、多田監督にとって忘れられない“甲子園初勝利”でもある。
「チームの勝利」と「選手の育成」を両立
大阪代表といえば、2000年代後半以降、大阪桐蔭が春夏連覇を果たすなど、他校を寄せ付けない圧倒的な成績を残している。このため、履正社は全国屈指の強豪校でありながら、大阪桐蔭に比べて“地味な存在”に甘んじてきた。
しかし、履正社の甲子園での戦績を振り返ると、2014年と2017年は選抜で準優勝。2019年の夏の甲子園では、井上広大(現・阪神)、小深田大地(現・DeNA)らを擁する強力打線で、星稜の奥川恭伸(現・ヤクルト)を打ち崩して、見事に初の全国制覇を達成した。夏の甲子園は、今回の勝利で「7連勝」になった。
履正社は、山田哲人(ヤクルト)をはじめ、プロにも多くの選手を輩出しており、「チームの勝利」と「選手の育成」を両立しているチームでもある。なぜ、大阪桐蔭に強力なライバルがいながら、ここまで強いチームを作ることができるのだろうか。その背景にはチームとしての“特色”があるという。プロ野球のスカウトは、以下のように話す。
「大阪桐蔭は、以前のPL学園ほどではありませんが、全員が寮生活であらゆる面で制限が多いです。野球に打ち込めるという意味では、当然、良い面が多いですが、性格的にそういう厳しい環境が合わない選手もいます。一方、履正社はほとんどが、関西出身の選手で自宅から通っており、グラウンド以外は自由な時間もある。だから、能力が高くても、大阪桐蔭に比べて、自由な環境にひかれて履正社を選ぶ選手が多いのです。(OBの)T-岡田(オリックス)や山田哲人を見ても、ちょっと性格的にのんびりしていますよね(笑)。大阪桐蔭とは違うやり方で、上手くブランディングできているのが、良い選手が多く集まる要因だと思います」(関西地区担当スカウト)
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