平凡な主婦から酒と男にだらしないシングルマザーまで… 若村麻由美の演技力を堪能する夏

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「科捜研の女」榊マリコの有無を言わせぬ圧&無茶ぶりに快く応じ、科捜研を訪れる際には茶菓子を差し入れ。法医学教授でシングルマザーの風丘早月。品よく美しく滑舌もいい女優・若村麻由美のハマり役である。

 若村で思い出すのは「美しき罠~残花繚乱」(2015年・TBS)で演じた、夫の不倫で壊れるセレブ妻役。ドリフのコントばりに口から食べこぼす若村に「さてはコメディー好きですな?」と思った記憶が。そんな彼女が大活躍。「夏の若村麻由美祭り」が絶賛開催中だ。

 まず、主演作「この素晴らしき世界」。鈴木京香が体調不良で降板、若村が救世主に。「平凡なパート主婦がスキャンダルを起こした大女優の影武者に」という内容なのだが、なんかゆるい。たぶん、似たタイトルの映画が秀作だったから、勝手に脳内誤変換で期待値を上げてしまったか。それにしても紗がかかったオープニング映像も妙な古さ。レーザーディスクのカラオケ映像か。月9といい、どうなっとるん、フジテレビ。

 それでも観続けたいと思う理由がふたつ。それ次第で面白くなるはず。まず、芸能界の闇ね。「大物女優が反社幹部(椎名桔平?)と懇ろ」とか、芸能界のドンとか新興宗教との関わりなど、どす黒い部分も描いてほしいな。中途半端にハートフルな影武者ドタバタ奮闘記で終わらせてほしくない。芸能界を素晴らしき世界と礼賛せず、忖度なく振り切って描くのが令和ドラマの課題。影武者モノで芸能界の黒歴史を暴く「あまちゃん」が好評再放送中なだけに、頑張らないとねぇ。

 そして、若村演じる妙子が、家事を何ひとつやらない上に主婦と女を見下している夫(マキタスポーツ)との離婚をもくろむ点。300万に釣られて影武者仕事を引き受けたのも、離婚資金になると考えたから。息子(中川大輔)もなんだか危なっかしい。妙子が自分の人生を歩き始めるところは丁寧に描いてほしい。第2話でややサスペンス方向へ動き始めたので展開を見守る。

 もう一作、小野花梨が主演の「初恋、ざらり」。花梨は軽度知的障害のある女性を演じている。健常者には当たり前の常識で、普通にできることができない。

 でも周囲には療育手帳を持ち歩く障害者であることを言えない。仕事に就くためには隠す、あるいは条件がゆるい非正規雇用しかないという現状。自分が必要な人間だと思われたい気持ちが強く、クズ男から性のはけ口にされることも。そこには悲しい現実が匂う。

 職場で優しくしてくれた真面目な男性(風間俊介)と恋をする物語だが、花梨が単純ではない思考回路を繊細に表現。適役だと思った。

 で、若村は花梨の母親役だが、酒と男にだらしなく、爛れた生活を送る。もうね、顔が別人級でびっくり。私が女優として敬意を払うのは「あばずれ・はすっぱ・よこしま」を演じ切れる人なので、現時点で見事合格。

 また、娘が軽度知的障害者という現実を何も持たないシングルマザーがどう捉えてきたのか、今後、若村がきっちり見せるはず。みこしは担がないが祭りを堪能。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年8月10日号掲載

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