藤井七冠、豊島九段を破り王座戦挑戦 1分将棋が1時間近く続いた大激戦を振り返る

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豊島は反省

 しかし、150手目に「6五玉」と豊島が玉を逃がした時、藤井の勝率が97%を示した。

 午後9時過ぎ、159手目に「4五龍」で横から王手をすると、豊島は投了した。双方、1分将棋になってから1時間近くもかかる大激戦だった。

 豊島は「目まぐるしく変わった難しい将棋だったが、チャンスを逃した。もうちょっとうまく指せそうな局面が多かったと思うので反省が多い」と残念そうだった。しかし、ABEMAで解説していた松尾歩八段(43)は「豊島さんのどこが悪かったのか。『6五玉』も自然な手にも見えるけど」などと話し、非常に難しい将棋だったことを示唆した。

 豊島の恩師である桐山清澄九段(75)は「自宅のパソコンで見守っていたけど残念だった。大熱戦で評価値もずいぶんと上下に振れていた。1分将棋になると、どうしてもミスが出ることがある。結果的には失着なのかもしれないけど、『6五玉』は読み切れずに指してしまったのではないかな。今回は終わってしまったけど、まだまだ若いのだからこれからも巻き返していってほしいですね」と語った。

 普段、関西将棋会館の2階は愛好家が将棋を指しに来るが、この日は大盤解説場になった。楽しい語りで人気の福崎文吾九段(63)を中心に、山崎隆之八段(42)、服部慎一郎四段(24)の3人が会場を盛り上げた。山崎八段は「大一番にふさわしい凄い将棋でした」と高揚した様子だった。

最近は五分の戦いの盟友

 藤井と永瀬の公式戦の対戦成績は藤井の11勝5敗だが、直近の8局では4勝4敗と五分の戦いをしている。たしかに最近、藤井に最も強い印象のある棋士が永瀬である。

 規律正しい性格から「軍曹」のあだ名を持つ永瀬は、王座を4期守っており、今季も防衛すれば連続5期(または通算10期)の条件を満たし、他のタイトルの永世称号に該当する「名誉王座」を手にする。名誉王座は過去、羽生善治九段と中原誠十六世名人(75)の2人しかいない。永瀬は栄えある3人目になるべく、藤井の挑戦を受けて立つ。

 そんな永瀬と藤井は、非常に仲の良い研究仲間であることで知られる。昨年は棋聖戦で藤井が永瀬の挑戦を退けている。会見で「永瀬さんにはここまで引き上げていただいた」と感謝した藤井は「手の内は知られている面もある。棋聖戦では永瀬王座が序盤から工夫をされたので、今度はこちらから工夫していければ」と話した。

 盟友同士の注目の五番勝負は、8月31日、神奈川県秦野市の「元湯 陣屋」で幕を開ける。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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