藤井七冠、豊島九段を破り王座戦挑戦 1分将棋が1時間近く続いた大激戦を振り返る
将棋の王座戦(主催・日本経済新聞)の挑戦者決定トーナメント決勝が8月4日、関西将棋会館(大阪市福島区)で行われ、藤井聡太七冠(21)が豊島将之九段(33)を破り、永瀬拓矢王座(30)への挑戦権を獲得した。藤井は現在進行中の王位戦七番勝負(藤井の3勝)で挑戦者の佐々木大地七段(28)を退け、8月末から始まる王座戦五番勝負で永瀬王座を破れば、前人未到の八冠となる。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
「はっきりと苦しい局面があった」
勝った藤井は「終盤になってから、お互いに玉形が乱れて適切な判断ができず、ミスが出てしまった」といつものように反省の弁を口にした。
今回の挑戦者決定戦に敗れれば、藤井の年度内での八冠達成の可能性は消えるところだった。3年前の棋聖を皮切りに今年6月の名人まで、あっという間に七冠を獲得した藤井だが、王座だけは「鬼門」だった。過去最高の成績は初めて参加した時のベスト4で、あとは早々に敗退。今回、藤井は6回目の挑戦で初めて挑戦権を獲得した。
藤井は準決勝で羽生善治九段(52)を破って決定戦に登場、初戦(2回戦)では村田顕弘六段(37)に絶体絶命に追い込まれながらも、土壇場の大逆転で勝ち上がっていた。
会見でこれを問われた藤井は「(村田戦は)終盤、はっきり負けの局面があった。本局もいくつかはっきりと苦しい局面があった。全体的に内容はよくなったとは言い難いけど、時間がなくなってから辛抱強く指せたのはこれまでと比べてよかった」と話した。
王座への初挑戦については、「王座戦では、ここ数年は結果が全く出せていなかったので、挑戦できることはうれしく思います。挑戦できるのは貴重な機会だと思うので、全力を尽くしたいと思います」と決意を述べた。
豊島は昨年に続く2年連続での永瀬王座への挑戦権は得られなかった。局後「チャンスを逃していると思います。もうちょっとうまく指せそうな局面も多かった」と静かに振り返った。
藤井と豊島の公式戦での対戦成績は、これで藤井の22勝11敗となった。
1分将棋が1時間近く続く
振り駒の結果、藤井が先手。最近の藤井は、先手に恵まれることが多いようだ。
豊島は歩で角道を止め、藤井が得意の「角換わり」を避けて「居飛車」戦に持ち込んだ。角を自陣の1段目に引いた後、「7三」と右側に据えて勝機を狙った。双方が「雁木」と呼ばれる陣形を選択し、じっくりとした駒組が進んでいった。
昼食は藤井が豚肉の天ぷらの「珍豚美人」(950円、レストランイレブン)、豊島が親子南蛮そばとおにぎりの「親なん定食(温そば)」(900円、やまがそば)を選んだ。どちらも将棋会館の近くの大衆食堂のもので、対局室でそれぞれが代金を支払った。
藤井の「6四歩」から戦端が開かれた。夕食の休憩後、双方が持ち時間(各5時間)を使い果たし、1分将棋に突入した後も、1時間近くを戦う大熱戦となった。
113手目に藤井が「4六銀」を指すと、ABEMAのAI(人工知能)評価値は豊島優勢に大きく傾き、豊島は「7九銀」と下から王手した。しかし、118手目に豊島が「3四玉」とすると、一挙に藤井の勝率が95%に跳ね上がった。しかし、135手目に藤井が「3三歩」とすると、再び6割がたの豊島優勢を示した。その後も五分の戦いになったが、何度も豊島が70%くらい優勢になる局面もあった。
[1/2ページ]