女人禁制の歌舞伎座に寺島しのぶ出演が決まった二つのきっかけ 背景に猿之助事件も
歌舞伎界に波紋が広がっている。50歳のベテラン女優・寺島しのぶが10月の歌舞伎座公演に出演するからだ。江戸時代から“女人禁制”が続く、梨園の世界で何が起きているのか。
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歌舞伎担当記者が言う。
「寺島が出演するのは『文七元結(ぶんしちもっとい)物語』という作品です。演出を担当するのは映画『男はつらいよ』で知られる山田洋次監督(91)で、寺島の起用は山田監督のご指名によるもの。仮に異論があろうと、松竹は大功労者である山田監督の意向に逆らうことはできません」
演目の「文七元結」は、明治期に活躍した落語家の三遊亭圓朝が創作した人情噺(ばなし)。ばくち好きの左官屋・長兵衛と女房のお兼を巡る物語は、好んで披露する噺家が多い。今回は長兵衛を中村獅童(50)が、お兼を寺島が演じる予定だ。
「長兵衛の役は、寺島の実父の尾上菊五郎(80)が長年演じた当たり役。長きにわたって父の演技を見続けてきた寺島にとっては思い入れのある作品のはず。寺島は物心ついた頃から歌舞伎に大いなる憧れを抱いていたものの、性別を理由に歌舞伎役者にはなれなかった。そんな背景もあいまって、今回の舞台には強い意気込みで臨むとか」
二つのきっかけが
過去に歌舞伎座の舞台に立った女優は少なくない。初代・水谷八重子、山田五十鈴といった大物らだが、演目は海外作品の翻訳劇が中心で、歌舞伎本公演ではなかった。それだけに歴史的な方針転換にも見える寺島の歌舞伎出演には、二つのきっかけがあったという。
梨園関係者が声を潜める。
「一つは市川團十郎(45)の長女・市川ぼたん(12)の歌舞伎座出演が続いていること。ぼたんは昨年暮れの團十郎襲名公演の際、初めて歌舞伎座の舞台を踏みました。“父親の襲名公演”が名目の特例でしたが、この7月にも團十郎の強い意向で弟の市川新之助(10)とともに出演しています」
時代の趨勢か、約400年前からの旧慣が有名無実化している現実が、寺島の決断を後押ししたという。
「以前なら大御所たちが許さなかったでしょうが、最近は坂田藤十郎や中村吉右衛門といった重鎮たちが鬼籍に入っていますからね」
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