【らんまん】万太郎を次々と不幸が襲う、その意味、主題歌「愛の花」との関係も鮮明に

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竹雄、綾を同時に不幸にした狙い

 この物語は当初、万太郎と義姉の綾(佐久間由衣・28) 、竹雄(志尊淳・28)の成長記だった。竹雄は万太郎の実家が営む造り酒屋「峰屋」の番頭の息子だったが、綾と結ばれた。3人は今も固い絆で結ばれている。

 その3人を同時に不幸に遭わせた長田氏の狙いの1つは、禍福はあざなえる縄のごとしというメッセージを明瞭にするためだろう。また、3人が運命共同体であることも表した。

 竹雄の幸不幸の境目は第89話。前半で竹雄は「幸せじゃなぁ」とつぶやいた。子供のころから好きでたまらなかった綾と結婚し、酒造りについて語り合う日々を送れていたから、夢見心地だった。

 しかし、直後に「火落ち」が起きてしまう。この作品は説明調のテロップや解説のナレーションを極端なまでに嫌うため、火落ちについての詳細は伝えられなかったが、乳酸菌の一種である火落ち菌が酒樽の中で繁殖してしまう現象。酒は酸化し、白く濁る。これを腐造と呼ぶ。ひとたび起こると、何年にもわたってその酒蔵に影響が出て、廃業に追い込まれることもある。

 それを防ぐためにあるのが「火入れ」と呼ばれる行程である。酒の加熱処理で、これによって殺菌する。だが、綾が新酒を造ったため、その火入れが遅かった。150年続く看板銘柄「峰の月」の火入れ時期も変えていた。これが火落ちの理由か。

 真相は分からないまま、峰屋は廃業を余儀なくされた。綾は自分を激しく責めたものの、竹雄が「誰のせいでもない」と庇護した。かつては険悪の仲だった分家の豊治(菅原大吉・63)も「腐造は酒屋である限り起こることじゃ」とし、綾を責めなかった。紆余曲折があったが、やはり親戚だ。

 さらに豊治は綾が峰屋の伝統を守ったことを誉め、感極まりながら「ばさま(タキ)もご先祖もさぞ喜んじょるじゃろう」とねぎらった。豊治は綾が養女であることについて不満を漏らし続けてきたが、もう何も言わなかった。

 分家は温かった。しかし、竹雄が資金援助を頼むと、その願いは断られた。万太郎が博物館への就職がかなわなかったのと似ていた。いくら親戚であろうが、情だけで物事は動かない。竹雄と綾もやはり現実を知った。

 今後、3人はどうなるのか。まず不幸は長く続かないと見る。禍福はあざなえる縄のごとしが作品からのメッセージなのだから。

 それは田邊教授にも当てはまる。親しい文部大臣・森有礼(橋本さとし・57)が後ろ盾になり、権力を次々と手にしているが、他力で得た地位は弱い。前東京高等女学校(現・お茶の水女子大)校長の美作秀吉(山本浩司・48)らに恨まれてもいる。恨みは恐ろしい。そろそろ幸不幸の境目を迎えるのではないか。

 万太郎は権威たちに疎まれている分、大衆を味方に付けるだろう。万太郎のモデルである牧野富太郎博士がそうだった。在野の植物愛好家たちの集まりや高校の特別授業などに気軽に顔を出したことから、絶大な人気を誇るようになり、全国から植物の情報が寄せられるようになった。権威たちの限られたネットワークとは比較にならない。

 竹雄と綾のモデルである井上和之助、牧野猶は酒造りを止めた後、醤油屋に転じた。竹雄と綾も再起するに違いない。不幸はいつか終わる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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