小型人工衛星を量産、宇宙を当たり前の場所にする――中村友哉(アクセルスペース代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】
宇宙企業を経営する
佐藤 いま中村さんは経営に徹しておられるのですか。
中村 はい。最初の7年間はほとんどエンジニアでしたが、アクセルグローブ事業を立ち上げてからキッパリとやめました。これだと決めたら、もうそっちに専念する。そういう割り切りのいいところがあります。
佐藤 社員は何人になりましたか。
中村 130人を超えました。
佐藤 どのように人を集めてきたのでしょう。
中村 衛星は構造や電気系統といったように分解していくと、必ずしも宇宙の専門家でなくていい部分が多いんですね。宇宙空間における姿勢の制御や位置を変えるためのガス噴射などは専門知識が必要ですが、それ以外は他の分野で使われている技術の応用です。ですから自動車業界から来た人もいれば、電機メーカーから来た人もいる。幅広い分野から集まってきていただいています。
佐藤 多様な業界の知を結集している。
中村 いまは急拡大期にあります。ですからミドルマネジメントを育成することが大切で、人事の責任者であるCHRO(最高人事責任者)を立てて、さまざまな取り組みを進めています。
佐藤 昨年からはもう一つ「AxelLiner(アクセルライナー)」事業を始められました。
中村 小型人工衛星の需要は伸びてきています。このためそのビジネスデザインから開発・製造、政府の許可、輸出入管理、宇宙保険、打ち上げ、運用までをパッケージにしたサービスを作りました。それにともない、これまでフルカスタムで作ってきた人工衛星をさまざまなミッションに対応できる汎用型とし、また量産もできるようにします。冒頭でお話ししたスペースXから打ち上げる衛星はその実証機です。これが成功すれば次世代機をどんどん作って打ち上げられます。
佐藤 そうなると、もうこのオフィス内では作れませんね。
中村 ええ、宇宙機製造アライアンス(由紀HD、ミスミグループ、Carim)を設立し量産の仕組みを構築しているところです。
佐藤 では工場をどこかに造られている。
中村 いえ、固定費がかかりますから、専用工場や専用のラインは持ちたくないのです。そもそも量産するといっても何千機も作るわけではない。衛星コンステレーションも100機はいりません。また1機でいいという案件はたくさんあります。
佐藤 作る数にも変動がありそうですね。
中村 その通りです。需要が増えたら増やすし、減れば片付けられるようなスケーラビリティ(拡張性)のある仕組みを作りたい。そうすれば将来、海外でライセンス生産する際にも仕組みごと輸出できる。
佐藤 何千でないにしても、一定数の確実な需要はある。
中村 10年もたてば、毎年数十機の小型衛星を打ち上げるような時代になると思います。1機なら大型衛星の性能にはかないませんが、複数の小型衛星を打ち上げることで、代替できる部分がある。また何機もあれば、1機がダメになっても残りでサービスを継続することができます。
佐藤 小型衛星の性能も上がるでしょうね。
中村 また通信技術も発達していきます。地上では2030年代に6Gが実現すると思いますが、宇宙空間でも光通信で通信インフラを構築しようという動きが始まっています。アメリカ、ヨーロッパ、中国では、すでに国家プロジェクトとして始動していますし、日本も今年、Kプログラム(経済安全保障重要技術育成プログラム)が始まりました。これには私どもも参加しているのですが、地上でいうところの光ファイバー網を宇宙に作るような計画です。
佐藤 海底ケーブルが切断されるようなことがあれば、ネットの世界は大変なことになります。代替のネットワークは必要です。
中村 宇宙の通信回線は、災害時のバックアップ回線になったり、海底ケーブル切断や有事にも対応できますね。
佐藤 全体としてインターネットの世界によく似ていませんか。
中村 その通りです。その歩みについても、よく投資家の方々から、宇宙産業はIT産業の発展とよく似ていると言われます。もともと国の軍事技術から始まって、BtoB(企業間取引)になり、それからBtoC(一般消費者向け取引)になっていく。
佐藤 確かにそうですね。
中村 いまは政府のみが宇宙を扱っていたところから、BtoBに広がり始めているところです。これが5年から10年もたてば、BtoCの世界にも広がっていくでしょう。その時代には、朝起きてスマートフォンを見れば、衛星からダイレクトにさまざまなデータが届いているようになる。私たちはそのインフラを整えて、宇宙を当たり前の場所にしていきたいと思っています。
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