小型人工衛星を量産、宇宙を当たり前の場所にする――中村友哉(アクセルスペース代表取締役CEO)【佐藤優の頂上対決】

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人工衛星を作り続けたい

佐藤 アクセルスペースは、日本の宇宙ビジネスのトップランナーです。でも中村さんは起業を目指していたわけではなかったそうですね。

中村 はい。私はただ、大学時代に経験した小型人工衛星の製作を続けたかっただけなんです。そしてそれを実現する方法が起業しかなかったから、起業を選んだんです。しかし、それがクレイジーな選択だとは気付いていませんでした。当時の状況では、普通に考えたら民間宇宙ビジネスなんていうものは成立しません。小型衛星技術も未熟だし、顧客が政府しかないからマーケットの魅力もない。あるのは巨大なリスクのみ。宇宙はお金が有り余っているアメリカのビリオネアが道楽でやるものだ、というイメージでした。だから、もし海外に留学してMBA(経営学修士)を取るなど経営の勉強をきちんとしていたら、こんなリスクの高い起業など、とても実行には移せなかったと思います。これを社会インフラにしたい、多くの人に使ってもらえるものにしたいという情熱がすべてでした。

佐藤 東京大学の理科一類出身ですね。

中村 高校時代に好きだった化学をやろうと入学したのですが、授業を受けてみると、興味が失われていきました。そこで進路振り分けがある2年後半のタイミングで、いろいろな学科の先生に話を聞きに行った。そこで抜群に面白かったのが、中須賀先生だったんですよ。

佐藤 すでに研究室では人工衛星製作に取り掛かっていたのですか。

中村 学生手作りの人工衛星プロジェクトが始まって、数年がたっていました。それまで人工衛星は、すごい人たちが何百人も集まり叡智を結集して製造する、と思っていたのですが、狭い古い研究室の中でキラキラ目を輝かせた学生たちが作っている。それを見て、自分もこのチームに入りたいと思ったんですね。

佐藤 私は中村さんが学生の頃、ちょうど駒場キャンパスで教えていました。化学志望から物理や宇宙に進んだ人は聞いたことがないです。

中村 そして衛星を作り始めたら、ほんとうに面白かったんですよ。衛星開発を続けたい一心で博士課程まで進みました。

佐藤 その間に人工衛星を打ち上げられている。

中村 先に触れましたが、修士課程2年の時に、世界で初めて学生だけで民生品をベースにした10センチ立方の超小型衛星を打ち上げました。研究室には博士課程修了までの6年間在籍し、三つの衛星プロジェクトに関わっています。

佐藤 そのまま大学に残って研究者になろうとは思わなかったのですか。

中村 ドクターまで行ったのも衛星を作りたかったからで、その後もどうしたら衛星を作り続けることができるかを考えていました。でもそんな会社はないんですよ。大型衛星を扱う企業はあっても、小型衛星でビジネスをしているところはなかった。

佐藤 それなら自分で作るしかない。

中村 当時、中須賀教授が大学発ベンチャー設立を支援する助成金を受けていることを知りました。そこで初めて自分で会社を作ればいいことに気が付いた。

佐藤 助成金はいくらくらいですか。

中村 2千万~3千万円くらいだったと思います。

佐藤 それだけでは足りませんね。

中村 その補助金が使える期間はあと2年間でした。それでベンチャーキャピタルを回ったのですが、まったく相手にされない(笑)。次に顧客を見つければいいと地図会社やオモチャ会社に行ったのですが、面白がってはくれるものの、一緒にやろうとはならない。その中で幸運にもウェザーニューズという会社に出会い、話が一気に進んだのです。

佐藤 気象情報会社ですね。

中村 ええ、彼らはちょうど北極海航路の海氷を観測して航路をナビゲートする方策を模索し、自社で衛星を持つことを検討していたのです。

佐藤 北極海航路はアジアからヨーロッパに行く最短ルートですし、北極海に面したロシアのヤマル半島には天然ガスの基地があります。ただ氷に覆われ、夏期しか通れない。

中村 ですから観測が必要で、人工衛星の打ち上げを創業者で会長だった石橋博良氏が決断してくださった。それで起業できたのです。

佐藤 創業は何年になりますか。

中村 2008年です。その5年後に1号となるウェザーニューズ社用の人工衛星を打ち上げました。

佐藤 気象情報会社なら、パートナーとしてピッタリですね。

中村 はい。でもその後、自社専用衛星を打ち上げる会社がどんどん出てくると思ったら、まったく出てこなかったんですよ。

佐藤 やはり莫大な費用がかかるからですか。

中村 はい。大型の人工衛星なら数百億円はかかりますが、私どもの小型人工衛星はその100分の1、数億円です。それでも高価なのは変わりない。

佐藤 それに見合う利益を出さなければなりませんからね。

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