仙台育英、夏の甲子園連覇へ発進! “青春は密”「須江航監督」、驚かされた浦和学院戦への「綿密な準備」

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「浦和学院の試合を見ていた」

 さらに、筆者が驚かされたのは、今大会に臨む須江監督の“綿密な準備”である。
 
「(浦和学院)は優勝候補だと思っていましたし、自分は埼玉出身で、もともと浦和学院さんが好きなので、対戦が決まる前から(中継で)試合をよく見ていました。初戦で当たることが決まってからは、秋、春と可能な限り試合のデータを集めて準備してきました。埼玉にも友達がたくさんいますので。(仙台育英は)本当にこんなに打てるチームではないのですが、そうやって準備してきたことが、結果に繋がったのかなとは思います」(同)

 須江監督は、何事もなかったように「浦和学院の試合を見ていた」と語っているが、甲子園出場が決まる前の段階で、既に戦うことを想定して、有力校をチェックすることは“普通”のことではない。他の強豪校も地方大会から事前にチェックしていたことは想像に難くない。長年、アマチュア野球の取材を続ける筆者は、高いアンテナを張って、情報を収集する須江監督の姿勢に驚くことがある。こうした地道な準備が、浦和学院という強敵の撃破につながったといえるのではないか。

 試合展開については、須江監督は、チームに幸運が重なった点を強調していたが、それもただ印象で語っているのではない。試合開始時間が遅れたため、当初の開始時間予定に比べて、グラウンドの気温が低くなったこと、前述した斎藤のタイムリーが、ファーストが捕球する直前にイレギュラーとなり、カメラマン席にボールが入り、テイク2ベースとなって2点入ったことなどを具体的な例をあげていた。筆者は、こうした発言から須江監督に慢心や隙を感じなかった。

「連覇」ではなく「2度目の初優勝」

 このほか、取材陣から場面によって強硬策と送りバントを織り交ぜていたことについて聞かれた際には、「スタンドやテレビで、自分がこの試合を見ていたとして、どうした方が勝ちに近づくか考えて判断した」と語っている。激しい打ち合いの中で、試合を俯瞰的に見て、どんな作戦を採用するか判断していたことをうかがわせた。ちなみに、仙台育英は攻撃のタイムを制限いっぱいの3回使い切っており、決して勢いに任せて攻撃していたわけではないことがよく分かる。

 須江監督が、この夏に一貫して口にしているのは「連覇」ではなく、「2度目の初優勝」という言葉である。これは昨年とはメンバーが違うことから来ているとのこと。当然といえば当然であるが、あえて言葉にすることで選手に「連覇」というプレッシャーを感じさせない意味がありそうだ。

 仙台育英の次戦は、昨年の夏の甲子園準決勝で対戦した聖光学園(福島)。同じゾーンには、大阪大会で大阪桐蔭を破った、優勝候補の履正社(大阪)がいる。「二度目の優勝」への道のりは平坦なものではないが、初戦で見せた戦いと須江監督の発言はその可能性を十分に感じさせるものだった。

 昨年の優勝インタビューでは、コロナ禍の3年生にかける言葉を問われた須江監督が「青春って、すごく密なので」と発言。これは大きな共感を呼び、「新語・流行語大賞」特別賞を受賞した。今年も再び、東北に歓喜をもたらすことができるのか。仙台育英の戦いぶりに注目だ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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