夏の甲子園を逃した大阪桐蔭「前田悠伍」 プロの評価は下がったのか、それとも…スカウトの“気になる本音”

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夏の大阪大会は選抜以来の公式戦だった

 夏の甲子園をかけた地方大会で、強豪校が次々と敗れて「波乱の夏」という文言がスポーツ紙を飾った。今春の選抜を制した山梨学院をはじめ、準優勝の報徳学園や大阪桐蔭、智弁和歌山、明徳義塾、横浜など名門校も甲子園の土を踏めなかった。また、ドラフト候補をみても、「世代ナンバーワン」と呼ばれる前田悠伍(大阪桐蔭)や木村優人(霞ヶ浦)、日当直喜(東海大菅生)、杉山遥希(横浜)、東松快征(享栄)、坂井陽翔(滝川二)ら、プロ注目の投手の多くが地方大会で姿を消している。【西尾典文/野球ライター】

 なかでも、前田の状態が不安視されていた。選抜後に開催された春の大阪大会と近畿大会では、ベンチ入りメンバーから外れた。さらに、東松との対戦に注目が集まった6月1日の享栄との練習試合も登板を回避する。ようやく実戦復帰を果たしたのは6月下旬だ。

 前田にとって、夏の大阪大会は選抜以来の公式戦となる。4回戦の東海大仰星戦で2本のソロホームランを浴びたほか、決勝の履正社戦でも8回を投げて3失点と試合は作りながら、敗戦投手になった。その内容は本調子とは言えないものだった。

大舞台で物怖じしないメンタルはプロ向き

 春は主力選手を試合から外して調整させることもあるが、これだけ長く実戦から遠ざかっているのは珍しい。6月には、スカウト陣からも「肘かどこかを痛めているのでは?」と前田を心配する声が聞かれた。しかし、最後の夏に結果を残すことができなかったからといって、前田の評価が大きく下がるかと言えばそんなことはないという。

 セ・リーグ球団スカウトが、以下のように解説する。

「1年の秋からずっと投げ続けてきて、昨年の秋も、いろんなところが痛いのに無理して投げていた部分はあったようです。春も選抜があったのでそれに合わせて早めに調整してきた。選抜以降に投げなかったのは、これまでに足りなかったトレーニングを補う意味合いが強かったのだと思います。フォームの完成度が高いので、プロでしっかり鍛えればまだまだスピードが出るでしょう。それに、前田の持ち味は、投球術やマウンドさばきで、ストレートの速さ以外の部分です。こういったところは、なかなか教えても身につくものではありません。大舞台で物怖じしないメンタルはプロ向きだと思います。こうした点を総合して考えれば、当然、評価は高くなりますよね」

「地方大会で敗退した方が良い」と語るスカウトも

 前田の高校生活を振り返ってみると、2年春に選抜優勝、1年秋と2年秋には明治神宮大会で連覇を達成するなど、大阪桐蔭の“歴代のエース”と比べて、遜色ない実績がある。総合的に考えて、現時点では、前田が「世代ナンバーワン投手」という評価に揺るぎはないようだ。

 そして、冒頭で挙げた投手たちも、夏の甲子園出場を逃したことが、プロ入りに向けて、大きなマイナスになるとは考えづらい。2018年に“金農旋風”を巻き起こした吉田輝星(金足農→日本ハム1位)のように、3年夏の甲子園での活躍で評価を上げたケースもあるとはいえ、それはむしろ少数派だ。

 昨年のドラフトをみても、高校生投手で最初に名前を呼ばれた斉藤優汰(苫小牧中央→広島1位)、2番目に名前を呼ばれた門別啓人(東海大札幌→阪神2位)は、いずれも春夏含めて甲子園出場の経験がない。

 夏の甲子園で活躍すれば、一般的な知名度や人気は上がるかもしれない。だが、
ドラフト候補に対するプロ側の評価は、地方大会の時点でほぼ定まっている。特に、投手は甲子園に出場すると、故障のリスクが高まるため、むしろ地方大会で敗退した方が良いと口にするスカウトがいるほどだ。

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