伊藤沙莉主演「シッコウ!!」 主役ではない織田裕二の立ち位置 月9「競争の番人」との違いも
なぜ、織田が主演でない?
そんな織田が「シッコウ!!」では主演でないため、「どうして?」という疑問の声も上がっている。理由は設定にある。
執行官の世界は観る側にはなじみが薄い。裁判所に所属する国家公務員だが、報酬は出来高ということもほとんど知られていなかった。一方、伊藤の役柄は保護動物カフェでアルバイト中の吉野ひかり。小原に頼まれると、補佐役の執行補助者を務めるが、執行官についての知識は視聴者とほとんど同じである。
そんなひかりが小原たちに執行官の世界について質問したり、体験したりすることが、視聴者にこの仕事を伝えることにつながっているのだ。
ひかりは作品を引っ張るストーリーテラーのような存在なのだ。この役割はフジの昨年の夏ドラマ「競争の番人」で、主演の杏(37)が扮した白熊楓に近い。
楓は警視庁捜査1課から公正取引委員会に出向した。何もかも警視庁とは異なったから、周囲に次々と質問した。また、初体験の連続だった。それらを見せることが結果的に視聴者に対して公取委の説明をすることにつながった。一般的ではない職業をドラマで描く時、組織に門外漢を飛び込ませるのはセオリーの1つなのである。
もっとも、「競争の番人」は公取委審査官・小勝負勉役の坂口健太郎(32)も主演だった。一方、織田の場合はダブル主演を辞退したのではないか。伊藤と織田ではキャリアも実績も違い過ぎる。それなのにダブル主演では2人が同格ということになりかねない。それなら織田が一歩引き、“スーパー助演”という立場を務めるほうが、しっくりくる。
泣かせるストーリーも魅力的
「シッコウ!!」はストーリーも魅力的。それもそのはずだ。小川潤平氏による原案小説『執行官物語』をもとに脚本化しているのは大森美香氏(51)なのだ。大森氏はフジの名作「ロング・ラブレター~漂流教室~」(2002年)や2015年度後期のNHK連続テレビ小説「あさが来た」などを書いた人。期待を裏切らない。
第1話はアパートの家賃を貯め込んだ家族3人を、小原が立ち退かせた。当初、父親の二川研一(中村俊介・48)は居座りを図り、妻の夢子(鳥居みゆき・42)も強制執行は不当だと騒いだ。
観る側の多くはこの家族のことを「勝手だなぁ」と思ったのではないか。だが、研一が会社をリストラされ、その後に自営したネットショップも行き詰まったことが後に分かる。
小原が家族を立ち退かせた後、夢子は「私たち何も悪いことしてないんですよ……」と悲痛な声を上げた。胸が締め付けられた。日々を懸命に生きていたが、どこかで歯車が狂ってしまっただけなのだろう。小原とひかりは家族の再起を祈った。
その後、ひかりのもとに家族から手紙が届く。和歌山で安穏と暮らしているという。観る側を安堵させた。テレ朝のドラマは弱者を不幸にしないのが特徴の1つだ。刑事ドラマも医療ドラマもみんなそう。独特のヒューマニズムが貫かれている。
第3話でも家賃不払いによるアパートの立ち退きが描かれた。債務者は無職で猫好きの矢上遼一(高橋光臣・41)。矢上は母親の介護を半ば嫌々やっていたが、亡くなってしまうと、深い悲しみに襲われ、働く気が失せてしまったのだ。
「もっと母さんといたかった……」(矢上)
母親を失った人にはたまらないセリフだっただろう。
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