習近平が持ち出す「極限思維」の危険度 米国の対話路線を台無しにし、いつか来た道へ
他国の脅威から自国を守る習氏の「極限思維」
中国が最も警戒しているのは、バイデン政権が「経済安全保障」を理由に中国の長期的な経済発展の基盤を崩そうとしていることだ。
その典型的な例が、中国に対する先端半導体関連の規制だ。
これに反発する中国はイエレン氏訪中直前の7月3日、半導体や電気自動車(EV)などの材料として使われるガリウムとゲルマニウムの輸出規制を発表した。だが、これは対中依存を減らそうとする日米欧の動きを加速させるとの懸念が生じている(7月5日付ブルームバーグ)。
唯一の緩衝材と言える経済の分野も不調になっている。7月14日付日本経済新聞によれば、米国の1~5月の中国からの輸入額が前年比25%減の1690億ドルとなってしまった。
米国の「真綿で首を締める」戦略に対し、自国に有利な国際秩序を築く戦略を進める中国は警戒心を募らせている。
習氏は最近「包括的国家安全保障」という概念を強調し、経済活動全般にわたって他国の脅威から自国を守る姿勢を鮮明にしている。
気になるのは、習氏が「極限思維」という用語を使い出していることだ。
中国の「極限思維」が米国の対話路線を台無しに?
習氏は5月30日の党中央国家安全委員会で幹部に対し、極限的な状況を想定した思考を意味する「極限思維」を振りかざし、「強風と波浪、ひいては暴風と荒波による厳しい試練に耐える」ことを強く求めたという。
極限思維の意味するところは、戦争に備えることにとどまらない。より有利な環境を整えるためあえて極限的な状況を作り出すことさえ想定している。
そのせいだろうか、中国は米国との軍事対話再開を拒否するばかりか、米軍機とのニアミスや米軍艦への異常接近などの危険な挑発行為を繰り返している。
「窮鼠猫を噛む」ではないが、「中国の極限思維が米国の対話路線を台無しにしてしまうのではないか」との不安が頭をよぎる。
経済関係の緊密化だけでは軍事衝突を回避できなかった悲しい前例がある。
英労働党議員で作家のノーマン・エンジェルは、1909年に「大いなる幻想(The Great Illusion。初版当時のタイトルはEurope's Optical Illusion)」を出版し、「英国とドイツの間で経済の相互依存度が高まったため、破滅的な損害をもたらす戦争はもはや不可能となった」と主張した。だが、軍拡を進めていた英国とドイツはその5年後に軍事衝突してしまった(第一次世界大戦の勃発)。
残念ながら、米中の軍事衝突のリスクはますます高まっているのではないだろうか。
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