ハンターの活動環境を整え狩猟の未来を作る――佐々木洋平(大日本猟友会会長)【佐藤優の頂上対決】

  • ブックマーク

北海道に狩猟特区を

佐藤 ジビエが普及しないのも、法律が関係していますか。

佐々木 大いに関係があります。やはりおいしく食べるには、撃った後、いかに早く血抜きして内臓を摘出するかなんですよ。外国ではその場ですぐ行います。でも日本は獲物を処理施設に運ばないと摘出できない。そうすると体内で大腸菌が広がってしまう。

佐藤 新鮮なジビエなら、引き取ってくれるところはいくらでもあると思います。ただ安定供給が必要です。

佐々木 ジビエの利用率は約1割で、自家消費を合わせても3割程度です。多くの個体は廃棄処分されています。私は何とかロースだけでも流通させたいと思っているんです。ロースは年老いたシカでも柔らかい。だからロースだけ取って、残りはミンチにしてペットフードにすればいい。

佐藤 処理施設はどのくらいあるのですか。

佐々木 全国に400くらいですね。市町村が運営し、どこも小規模ですから安定的に流通させるのは難しい。もう一つ問題なのは、時期なんですね。狩猟期間は基本的に11月から2月までですが、駆除はだいたい夏場にやることになっている。

佐藤 時期を分けている。

佐々木 つまり趣味と仕事を分けたということです。でも夏場は木々が生い茂り見つけにくいし、暑い中、肉がすぐに腐ってしまいます。しかもちょうど子供連れだったりする。

佐藤 それも駆除することになる。

佐々木 一方、冬場の狩猟期間は妊娠している個体が多く、撃ちやすいし、また肉も一番おいしい時期なんです。ですから狩猟期間中に駆除もやればいいのに、環境省が変な規則を作ってしまったんです。

佐藤 国際的に見ても、日本の狩猟は遅れているというか、歪(いびつ)な制度になっているのでしょうか。

佐々木 遅れているでしょうね。外国では保護団体と手を組んで活動しています。つまり野生動物の保護と管理の側面が大きい。そもそもヨーロッパでは貴族や富裕層の集まりです。私は4月にパリで開かれたCIC(国際狩猟・野生動物保全評議会)の総会に出てきたのですが、本当に別世界でしたね。

佐藤 ロシアでも狩猟はエリート層の趣味で、ブレジネフ書記長が非常に好きでした。また1997年にクラスノヤルスクで開かれた橋本龍太郎総理とエリツィン大統領の日露首脳会談では、ロシア側から狩猟に行かないかと提案がありました。あの時は橋本総理が嫌がり、結局釣りになりましたが。

佐々木 以前、ナミビアで開かれたCIC総会では、空港に、参加者のプライベートジェットが何十機と並んでいました。そういう世界なのです。パリの総会後にはハンガリーに行って彼らと狩猟をしてきましたが、そこで彼らは、北海道で狩猟がしたい、と言うんですよ。シカがたくさんいることを知っているんですね。

佐藤 外国から日本に狩猟に来ることはできるのですか。

佐々木 できません。ですから今後、外国人ハンターの受け入れを働きかけていこうと思っています。北海道の猟区を増やして狩猟特区とし、狩猟観光を行うのです。

佐藤 実現すれば、非常に大きなインバウンド需要になるでしょうね。

佐々木 その通りです。また来日した欧米のハンターを見れば、日本人の狩猟に対するイメージもかなり変わってくるでしょう。そうした刺激を与えつつ、日本の狩猟文化をもっと発展させていきたいと思っています。

佐々木洋平(ささきようへい) 大日本猟友会会長
1942年岩手県生まれ。66年東京農業大学農学部卒。実家は農家で牧場勤務などを経て70年より牧場を経営。79年より岩手県議会議員(4期)、96年から衆議院議員(1期)。2010年大日本猟友会会長に就任。狩猟者の活動環境改善と発展のため法改正などに取り組む。15年環境保全功労者として環境大臣表彰。22年旭日中綬章受章。

週刊新潮 2023年7月27日号掲載

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。