ハンターの活動環境を整え狩猟の未来を作る――佐々木洋平(大日本猟友会会長)【佐藤優の頂上対決】
日本で野生鳥獣を捕獲するには、狩猟免許がいる。それを持つハンターたちの全国組織が大日本猟友会だ。趣味団体である一方、シカやイノシシなどによる農業被害や住宅地への出没があった際には、銃などで駆除する。その役割は益々重要になっているが、活動には多くの制約があり、会員も減る一方だという。
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佐藤 私の大学時代の同級生に千葉県議会議員となった瀧田敏幸氏がいます。この5、6年、彼からよく聞くのは、地元・印西(いんざい)市でイノシシが増えすぎて大きな問題になっているという話です。
佐々木 そうした声は各地から寄せられていますね。
佐藤 里山が荒廃している上に、ウリボウ(イノシシの赤ん坊)などに餌をやったりする若者がいるため、人間を怖がらず住宅地付近までやってくる。そしてものすごい勢いで増えているそうです。年に2回出産する個体もいて、一度に6頭くらい生まれてくる。
佐々木 そうですね。多いと10頭くらい生まれることもありますよ。
佐藤 彼は20年後の印西市では人よりイノシシが多くなるかもしれない、と冗談まじりに言っていましたが、減らす方策としては、もう猟友会に頼むしかない。
佐々木 日本で野生の鳥獣を捕獲できるのは、狩猟免許を持ち、登録した狩猟者だけです。大日本猟友会はその狩猟者たちの日本唯一の全国組織になります。趣味の団体であるとともに、野生鳥獣の保護・管理の担い手でもある。害獣の駆除・個体数調整については、市町村からの要請で行っています。
佐藤 年間にどのくらいの数の害獣を駆除しているのですか。
佐々木 大型獣のイノシシ、シカは、合わせて年間140万頭を捕獲していますね。そしてサルが2万数千匹くらいです。
佐藤 テレビでこの話題になると、オレンジ色のベストを着て猟銃を持っている人がよく映りますが、その人たちが猟友会の方々ですね。
佐々木 その通りです。急速な人口減や過疎化によって全国の里山は荒廃し、林業も衰退しています。さらには戦後の拡大造林政策で天然広葉樹を皆伐してスギ、ヒノキを植林しましたから、イノシシやシカには住みやすい環境ができている。こうした条件が重なり、個体数が増えて、各地で被害が出ているのです。
佐藤 狩猟ができる人はどのくらいいるのですか。
佐々木 狩猟免許所持者は、昭和50年代に40万人を超えていましたが、その後は減少の一途をたどり、現在は約10万人です。免許にはライフルや散弾銃が使用できる第一種猟銃、空気銃が使える第二種猟銃、それから網猟とわな猟の4種類があり、重複取得している人もいます。
佐藤 3分の1以下になっている。
佐々木 その力を結集して害獣駆除にかからねばならないところ、たいへん残念な状態です。しかも年齢を見ると60歳以上の割合が60%に及んでいます。これでは早晩、駆除要請にきちんと応えられなくなる。
佐藤 若い人を取り込まなくてはならないわけですね。
佐々木 はい。唯一、明るい話題は、女性ハンターの数が増えていることです。
佐藤 免許を取得した人たちは、そのまま大日本猟友会の会員になるのですか。
佐々木 いえ、希望者だけで、入会者は免許取得者の8割ほどです。会員は各支部・地区を通じて都道府県の猟友会に入り、その都道府県の猟友会が大日本猟友会を構成するという形を取ります。
佐藤 狩猟免許を取るのは、なかなかたいへんなのではないですか。私は鈴木宗男事件に連座して逮捕され、前科がありますから取れないと思いますが。
佐々木 いや、前科だけで取れないということはないですよ。試験は適性、知識、技能の三つで、どれも準備さえすればさほど難しくはありません。ただその後がたいへんなのです。第一種や二種の場合、試験合格後に、銃所持へのさまざまな手続きがあります。その一つである射撃教習を受けるため、教習資格認定書を申請します。するとこの時から約3カ月間の警察による身辺調査が始まります。また射撃教習後、銃を買う段階になっても2カ月ほど調べられます。
佐藤 どんな人に、何を聞かれるのですか。
佐々木 家族や住んでいる家の近所の人、職場の同僚・上司などに、飲酒の習慣や精神状態、トラブルや借金の有無、銃所持の目的など、さまざまなことを聞いて回ります。
佐藤 それは嫌ですね。
佐々木 3年後には免許を更新しなければなりませんが、その時も身辺調査がありますし、家まで銃やガンロッカー(銃の保管庫)を見にきます。もし寝室にあれば、そこまで警察官が入ってきますよ。だから家族の理解が必要です。これらが負担で更新しない人も多く、狩猟者の減少を招く一因となっています。
佐藤 つまり品行方正でなければならないわけですね。ただそれでも猟銃事件は時々起きます。今年5月に長野県中野市で起きた猟銃による警官射殺事件は衝撃的でした。
佐々木 猟銃事件には非常に頭を痛めています。彼は犯行に使ったハーフライフル銃や散弾銃など4丁を持っていました。猟友会の会員ですが、入会と退会を2度繰り返している。警察がちゃんと身辺調査をしていたら、おかしな人物であることはわかったはずです。それなのに銃の所持を許可していた。
佐藤 父親が市議会議長で、名士の息子ということがあったのかもしれない。
佐々木 それでも周囲に聞けば、彼が危ないということはわかると思いますがね。猟銃だけでなくナイフも使っていますが、私はナイフもある程度の規制は必要だと思います。銃についてはもう、二重、三重に規制があるのです。こうした事件があると、さらに銃の規制が厳しくなる。でもその前に、現在の制度の枠内で、きちんと運用していくことが必要だと思います。
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