【袴田事件】巖さんは87歳なのに、検察の姑息な方針で「年内判決は絶望的」 90歳・姉のひで子さんはどうみているか

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「2年や3年」の意味

 弁護団は再審で「捏造」を前面に出して争う構えだ。そうあるべきだ。そもそも袴田事件では、原審で当初の弁護士が「捜査機関が捏造などするはずがない。証拠捏造だなんてそんな品のないことを言うものではない」などとして排除してしまったため、警察・検察につけ入れられて失敗した、ある意味、弁護過誤だったのだから。

 7月24日に改めて筆者が電話で説明を求めた弁護団事務局長の小川秀世弁護士は「こちらが提出した250点の証拠には、焼けたお札など『5点の衣類』以外の捏造に関する証拠も含まれている。弁護団としては証拠捏造を前面に打ち出して戦ってゆく。焼けたお札や裏木戸の実験写真などもすべて確定記録にあるので再審では証人尋問などもしない。裁判所は書類審査をするだけなので、2年や3年もかかるわけではない」と話していた。

 ひで子さんは、一刻も早く弟から「死刑囚」のレッテルを剥がしてほしいと切望していることに変わりはないだろう。この期に及んでも「2年や3年長くなってもどうってことない」と語った彼女は、虚勢を張るような人ではない。「2年や3年」には、捜査機関の捏造がうやむやになっての無罪判決よりも「多少、時間がかかっても徹底的に捏造を炙り出してほしい」という思いが籠められているように感じた。

 姉弟は高齢とはいえ、幸い2人ともこの年齢とは思えないくらい達者である。もちろん静岡地裁は「2年や3年」の言葉に甘えてはいけないが、検察が「捏造」に抵抗してくるのなら弁護団は再審公判を「5点の衣類」のみならず、徹底的に「捜査機関の捏造」を天下に晒す場にすべきである。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

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