【袴田事件】巖さんは87歳なのに、検察の姑息な方針で「年内判決は絶望的」 90歳・姉のひで子さんはどうみているか

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検察は法廷に巖さんを引きずり出したい?

 7月18日、弁護団は9月に予定されている非公開の三者協議を打ち切り、初公判に切り替えるよう静岡地裁に申し立てた。4月から裁判所、検察庁、弁護団の三者協議を続けてきたが、「10月まで予定されている協議は意味がない」「刑事裁判は公開が原則、誰でも傍聴できる公判にすべきである」と主張する。

 要請後に会見した角替清美弁護士は「非公開で忌憚なく意見が言える場として三者協議を受け入れてきたが、検察は何を聞いても『言えない』『言えない』ばかりで協議を続けるメリットはない。国民の目が入る公判の場で『言えません』ばかり言えるでしょうか。即刻、公判に切り替えるべき」と訴えた。

 しかし、翌19日の4回目の三者協議で、静岡地裁の國井恒志裁判長は、9月から公判に切り替えることを拒否した。

 静岡弁護士会も有罪立証の方針の撤回を求める声明文を発表した。14年3月の静岡地裁の再審開始決定以来、検察の抗告で再審開始の確定に9年かかった経緯を説明し、「再審請求審で既に検察は過剰なまでの主張立証を行っており、不当な蒸し返し」と指摘。杉田直樹会長は「検察の姿勢はいたずらに貴重な時間を費やす行為。袴田巖さんに残された貴重な人生を愚弄している」と会見した。

 一方、静岡地検の山田英夫検事正は「法と証拠に基づいて立証を行うのは当然のこと。(再審請求審の)蒸し返しということにはならない」などと会見した。

 さらに、角替弁護士は「(拘禁症状の影響で)とても出廷できない袴田さんについて、検察は『中立的な医師の診断書』まで求めてきた。あれこれ難癖をつけてきて引き延ばしたいだけ」と憤る。「中立的な医師」というのなら、釈放後の巖さんを診ている静岡県浜松市の医師は「偏った医師」なのか。

 検察は巖さんをなんとか法廷に引きずり出したいようだ。しかし、静岡地裁(1968年)と東京高裁(1976年)で2度にわたって死刑判決を宣告された巖さんが法廷に立てば、衝撃や恐怖がフラッシュバックして精神バランスがさらに崩れかねない。挙句、ひで子さんの元でなんとか平穏な日々を送っている現在の生活も壊される恐れもある。威勢のよいことを言っている検察は責任を取れるのだろうか。

最高裁の「争点絞り」の落とし穴

 さて、弁護団の抗議文にはこうも書かれている。

《「血痕に赤みが残る」ということだけでは、犯行着衣であることの証明にはなっていない。発見直前にみそタンクに(衣類を)入れても、事件直後に入れても「赤みが残る」可能性があることが明らかになっただけである。そうであれば、赤みが残る可能性が残ったとしても、事件直後にみそタンクに入れられた犯行着衣であるという証明になるはずがない》

 袴田事件の審理では最高裁が差し戻しの際の課題として「血痕の色調の変化」に争点を絞ったことで、「赤みが残らないなら袴田さんの犯行ではない」が、いつの間にか「赤みが残るなら袴田さんが犯人」にすり替わってしまった印象だ。赤みが残らなければもちろんだが、仮にそうでなくても巖さんが犯人であるということにならないこと、さらに「5点の衣類」にとどまらず、「とも布」「焼けたお札」「事故郵便物」など、捜査関係者が多くの不自然極まりない証拠捏造をしてきたことは、本連載でも紹介してきたように明らかなのだ。

 捏造の最たるものが「5点の衣類」には違いないが、「赤みが少しでも残っておれば袴田巖さんの犯行」のように世の人たちが誤解してくれれば、それを証明するだけで済むため検察は大いにありがたい。最高裁判所が争点を絞ったのは早期解決を念頭に置いたのだろうが、検察が今、これを逆手に取っている印象だ。

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