マスクを外す人が増えて…いま改めて考える、新型コロナの新規感染者数・死亡者数を連日報道した意味

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専門家と素人の違い

 2類から5類に変更されたことで、“本日の新規感染者数・死亡者数”の報道はなくなった。改めて西澤氏に取材を依頼し、“人数”を報じ続けたテレビニュースの問題点を指摘してもらった。

「もし、がん告知の場面で、担当医が『あなたはステージⅠです』としか口にせず、後は説明を一切しないとしたらどうでしょう。私たちは『これからどうしたらいいんですか?』と質問するはずです。テレビニュースが毎日報じていた“本日の新規感染者数・死亡者数”は、がんのステージしか伝えないという不完全な告知と同じレベルの情報しか提供していないため、テレビと視聴者の間にコミュニケーション不全が起きてしまったのです」

 数字で表されるデータは、一般的に信頼性が高いと考えられている。だが、その意味を正確に読み取ることができるのは専門家だけという問題がある。

「テレビで『本日、全国で1万人が感染しました』、『本日、全国で5000人が感染しました』としか報じられなくとも、感染症の医師といった専門家なら人数というデータだけで全体的な状況を理解するでしょう。しかし、専門的な知識のない市井の人々は『最近、人数が増えたね』と不安を感じて終わりです。明日、どんな対策をすればいいのかは全く分かりません」(同・西澤氏)

欧米と日本の違い

 テレビニュースは「1万人が感染しました」と報道する。しかし、どんな対策をしていいのか分からない。結果、日本人の多くが「とりあえず、マスクを着けるか」と判断したのだ。

「日本人が長期間、マスクの着用を続けたのは、テレビが“本日の新規感染者数・死亡者数”という数字だけを報じ、具体的な対処法や感染者数の増減をどう受け止めるべきかという解説をしてこなかったことが一因にあるでしょう。何より映像の力は非常に大きいので、視聴者の心理や思考に強い影響を与えます。マスクを着用している映像が繰り返し流れたことによる“刷り込み効果”や、『みんながマスクをしているのなら私もしよう』という“多数派同調バイアス”も大きな影響を与えました」(同・西澤氏)

 西澤氏は今月、仕事でドイツに渡った。現地ではドイツ人だけでなく、欧米を中心に様々な国籍の人々が集まっていたが、やはりマスクの着用率は低かったという。

「私が注目したのは、それでもマスクを着けている人々の姿でした。例えば、国際便の機内で外国人スチュワードの何人かは、乗客に食事を配る際にマスクを着用していました。彼らの仕事内容を考えると理解できます。やはり欧米でマスクの着脱は“個”が決定しているのに対し、日本では“空気”が大きな影響を与えていると痛感しました。またいつか、新しい感染症が日本を襲います。今回のコロナ報道の反省を次に活かさないと、再び同じことが起きてしまうでしょう」(同・西澤氏)

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