「美少女イラスト」炎上騒動はなぜ繰り返すのか 「許せない!」と抗議した女性クレーマーの意外すぎる正体
漫画好きほど漫画の企画に抗議する?
筆者はイベントの傍らで二次元美少女やイラストについて様々な実験を行い、研究を重ねてきた。その過程で非常に興味深いことがわかった。そもそも、「二次元美少女が性的だ」などと言ってくる人は、結構熱心に漫画を読んでいたり、アニメ好きだったりすることが少なくなかったのである。
例えば、「美少女イラストなど許せない!」「撤去してください!」と抗議してきた女性が、実は熱心なBL漫画の愛読者であることが発覚した例もあった。別分野の漫画好きが、クレームをつけている例は意外に多いのではないか。「昔はよかったのに今はダメ」という世代間のギャップによって、批判される例もあった。「手塚治虫のような漫画であれば許せるが、今どきの絵は卑猥で受け入れられない」と抗議してきた50代の男性もいた。男性は自称・漫画好きであったが、手塚治虫が田中圭一よりも“危険”な作品を描いていることを知らなかったようである。
筆者は「手塚治虫漫画全集」(講談社刊)全400巻を持っているので、「奇子」「人間昆虫記」「プライム・ローズ」「こじき姫ルンペネラ」など、様々な実例を挙げて対応したところ、無視され、以後クレームは言われなくなった。このように、筆者が経験した事例では、漫画やアニメに一家言持つ人ほど攻撃的な傾向が強かったのである。
二次元美少女も五重塔も一般人は区別がつかない
いつも不思議に思うのだが、駅の構内に二次元美少女の広告が貼ってあったとして、興味の欠片が1ミクロンもない人はまじまじと見るのだろうか。おそらく見向きもしないはずである。ましてや、衣装やスカートのシワのような細かい表現など意識すらしないし、はっきり言ってどうでもいいだろう。よほど丹念にそういった表現を探しているなら別だが、自然に目についてしまうのは知識や先入観や素養があるためなのだ。
筆者は「かがり美少女イラストコンテスト」の一環として、美少女ゲームの原画家が描いた二次元美少女のイラストを町中に掲示したことがあった。印象的だったのは、おばあちゃんから「めんこい(かわいい)女の子だね」と言われたことである。何も知らない人にとっては、二次元美少女は「かわいい女の子の絵」なのだ。ところが、先に紹介したような自称・漫画好きのような中途半端に知識がある人ほど、先入観が邪魔をして純粋な目で見ることができないのである。
筆者は建築や文化財を長年取材しているので、例えば「法隆寺」と「醍醐寺」と「東寺」の五重塔の違いはパッと見ただけでわかるし、時代ごとに異なる特徴も説明できる。ところが、妻に五重塔の写真を見せたら「全部同じにしか見えない」と言われた。古建築に知識も興味もない人が判別するのは困難である。
これは二次元美少女にも当てはまる。女児向けアニメ、少女漫画、美少女ゲームのイラストを並べて、どれが子ども向けで大人向けなのかまで区別がつく人は相当なオタクである。「アイカツ!」や「ワッチャプリマジ!」などの女の子向けのゲームや、今どきの書店にある絵本には、もはや10~20年前の美少女ゲームと判別がつかない絵も登場する。美少女イラスト特有の表現はそれだけ社会に浸透してしまったともいえるし、10~20代にとっては、ありふれたものになっているためだ。
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