猿之助不在の歌舞伎界を救うのは誰か 演劇記者は「中車でも團子でもなく、革命を起こした男」

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先代猿之助の「スーパー歌舞伎」の雰囲気が……

 市川猿之助の総合演出で、来年2~3月に初演が予定されていたスーパー歌舞伎II「鬼滅の刃」が上演中止となった。現在、代替公演の準備で関係者は大わらわだと伝えられている。

 当初は、猿之助不在の穴を、市川中車(香川照之)や、その息子、市川團子が埋めていくものと思われていた。ところが、ここにきて、新たに脚光を浴びている歌舞伎役者がいる 。

 ベテランの演劇記者が語る。

「それは、尾上松也です。27日に新橋演舞場で千秋楽を迎えた新作歌舞伎『刀剣乱舞 ~月刀剣縁桐~』の演出と主演をこなしているのですが、連日大入り満席で、しかも面白い。1か月公演でしたが、『なぜ2か月公演にしなかったのか』との声があるばかりか、なかには、『先代猿之助がやっていたころのスーパー歌舞伎の雰囲気がある。もうスーパー歌舞伎は、松也にまかせたほうがいいんじゃないか』というファンもいます」

 いうまでもなく「刀剣乱舞」は、オンラインゲームを原作とする時代物ファンタジーである。いままでミュージカルやアニメになってきたが、歌舞伎は今回が初めてだ。

「『刀剣乱舞』には、女子の熱狂的なファンがいます。彼女たちの多くは歌舞伎なんて見たこともない。その一方、出演者は、松也のほか、尾上右近、中村莟玉といった若手人気役者を中心に、新派の河合雪之丞、さらには人間国宝の中村梅玉までが登場する、本格的な配役です。会場も新橋演舞場。つまり、歌舞伎を知らないお嬢さんたちと、むかしながらの歌舞伎ファンの両方を満足させなければならない。これはそう簡単にできることではありません。それを松也は、見事にこなしたのです」

 開演前にツケ打ちや大向こうの解説があり、初心者を一気に歌舞伎の世界に引き込んだ。

「さらに驚いたのは、終演後、カーテンコールがあったことです。ふつう、歌舞伎は大詰で幕が引かれたら、それで終わりです。ふたたび幕が上がることは、まずありません。それを、まるでミュージカルかオペラのように、何度もカーテンコールをおこない、そればかりか、写真撮影を自由にしたのです。これには仰天しました」

松也が歌舞伎界に起こした革命

 この記者氏も、長く舞台を観てきたが、このような本格歌舞伎公演での写真OKは、初めてだったという。

「しかも、いま撮った写真をSNSで拡散してくれといいながら、役者たちが花道まで出てきてポーズをとってくれる。さらには鑑賞教室で来ていた高校生に向かって、学校名を口にしてお礼を述べる。もう客席は大騒ぎです。この瞬間、松也は歌舞伎界に革命をおこしたと思いました」

 歌舞伎役者の「写真」撮影は、一筋縄ではいかないことで知られている。

「歌舞伎座や新橋演舞場で、よく舞台写真を販売しています。あれは、開幕後の最初のころに専門業者が撮影し、それを役者がチェックし、OKの出たものだけが販売されるのです。ですから、月の後半にならないと、写真販売がはじまらない。それを知っているファンは、写真目当てに、わざと月の後半に行くひとも多いのです」

 ところが「刀剣乱舞」では、ファンが撮った「舞台写真」が瞬時にSNSにアップされる、それを許したのだから、たしかに「革命」ともいえるのだ。

「それだけではありません。演出もスピーディーですし、『陰腹(かげばら)を切る』(ひそかに切腹し、痛みを隠して心中を明かす)シーンを入れるなど、ちゃんと本格歌舞伎ならではの愁嘆場もある。宙づりを入れた派手な立ち回りもあれば、大ベテラン、中村梅玉の花道の引っ込みなども、さすがといいたくなる風格でした。まさに、ゲームを知らない年配のファンでも十分、楽しめる舞台になっていたのです。とにかく歌舞伎を盛り上げよう、新しい層に広めようという、松也の執念が爆発したような公演でした」

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