制作費は1話1億円 「VIVANT」の主役が堺雅人ではなく阿部寛に見えてしまうのはなぜか

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阿部寛が主役に見えてしまう理由

 第2話までは「主演が堺ではなく、阿部に見える」という声をよく聞いた。弱気の乃木には主体性がなく、物語をリードしたのは野崎だからである。堺が主演として存在感を発揮し始めるのは、強気の乃木が頻繁に顔を出すようになってからだろう。

 この作品は多額の制作費がかかっているのが一目で分かる。「日曜劇場」の通常の制作費は1話4000万円がドラマ界の常識だが、「この作品は1億円前後が費やされている」と言われる。

 堺、阿部、二階堂、役所、二宮ら主演級が何人も出演し、モンゴルで約2カ月半の長期ロケが行われたから、それくらいはかかる。「日曜劇場」には花王、SUNTORY、日本生命、SUBARUという超優良スポンサーが付いているものの、それだけで捻出できる金額ではない。

 TBS関係者によると「このドラマはあらかじめ系列の有料配信動画のU-NEXTなどで流すことが決まっていたため、制作費の考え方が全く違う」という。U-NEXTからも資金が出ているのだ。

 では、どうして1億円出すのか。U-NEXTでも流すからだが、それ以外にも理由がある。原作と演出を務めている福澤克雄氏の “卒業作品”だからだ。

「半沢直樹」(2013年、2020年)を大当たりさせた福澤氏は、局の大功労者で上席執行役員待遇だが、年明け早々に定年を迎える。この作品に大物出演者が揃ったのも、福澤氏の“卒業作品”だから。ただし、TBS関係者によると、福澤氏は嘱託などの形で局に残り、演出を続ける。

若い人は観たが、年配層は伸び悩む

 次に視聴率を分析したい。参考までに世帯視聴率も記載するが、テレビ界もスポンサーも3年前から使っていないので、度外視しても構わない。世帯視聴率が使われなくなった大きな理由は、高齢者が好む番組は数字が高くなり、若者向け番組のほうは低くなるなという致命的欠陥があるからだ。視聴実態を表さず、分析も不可能だ。

 まず54分拡大の第1話は個人(4歳以上の全体値)が7.4%(世帯11.5%)、T層(13~19歳の個人視聴率)が4.9%、F1層(20~34歳女性の同)が3.8%。いずれも夏ドラマで断トツだった。特に10代のT層は突出して高かった。

 25分拡大の第2話は個人7.2%(世帯11.9%)、T層2.7%、F1層3.3%。第1話より落ちたが、それでも高水準。半面、年配層の個人視聴率はさほど高くない。これが全体の視聴率を頭打ちにした理由なのだ。

 10代もF1層も支持したのはRPGゲーム感覚的な中身が受け入れられたからでもあるはず。一方、それが年配層には合わなかったと見る。

 制作会社関係者は視聴率について「こんなもの」と評する。TBS関係者すら「想定の範囲内」と話した。第1話、第2話には弱さもあったからだ。

「第1話は迫力ある映像で視聴者を引き付けた分、ストーリーがやや弱くなってしまった。また、不可解な誤送金や『VIVANT』という言葉が提示されるなど、全編にわたって伏線の色合いが濃かった。面白みに欠けたと言わざるを得ない。配信を意識しているから、こういう構成にしたのでしょう」(制作会社関係者)

 この制作会社関係者はこうも語った。

「第1話、第2話ともに主人公の乃木に主体性がなく、野崎が物語を引っ張る展開だった。ドラマとしては異例のことです。制作側としては計算の上でしょうが、物足りなさを感じた人もいるはず。この作品の真価が問われるのは、乃木に主体性が生まれてからです」(同・制作会社関係者)

 強気の乃木が別班であることが明かされた後、ということか。

 この作品が異例であるのは、豪華出演陣や巨額制作費ばかりではない。第1話は54分拡大、第2話は25分拡大、第3話も15分拡大される。3話連続での拡大は極めて珍しい。
ほかの作品は拡大したくても簡単には出来ないのだ。拡大部分のスポンサーはそう易々とは見つからないからである。「福澤作品への期待値が高いから拡大の連続が実現している」とTBS関係者は解説する。

 視聴率の行方は別とし、夏ドラマの話題作ナンバーワンの座は譲りそうにない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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