【王位戦第3局】藤井七冠の妙手「香車捨て」に佐々木七段は万策尽きる 対局室には「ボオー」と汽笛が

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藤井は「課題が残った」

 ABEMAの中継では解説の聞き役だった山口恵梨子女流二段(31)は、藤井の妙手に加えて「佐々木先生の粘りに感動しました」と話していた。投了直前の場面から大盤を使って、「これならどうですか?」「これなら?」と守りの選択肢を次々に示し、井出五段に解答させていたのは非常に面白かった。

 藤井の龍の横効きを防ぐために佐々木が持ち駒で「4二」に合駒をするわけだが 、角を合駒に使うとそのまま、「7六」にいた藤井玉に対して逆王手になる怖さもあった 。いずれにせよ、素人としてはこのくらいまで佐々木が粘ってくれたほうが、投了図からもなぜ勝っているのか、敗けているのかがある程度わかってありがたい。

 佐々木は「『4五歩』から動かれて対応が難しかった。『1五歩』で1筋を刺激したのはよくなかった。『4二銀』はかなりうるさかった。『4四香』の切り返しに気づくのが遅れて、粘る順を探さなくてはいけなかった」と振り返った。藤井は「『4五歩』から『4五同桂』の攻めはうまくいかなかった。『7五同歩』は玉を動かして受ける手もあった。玉への当たりが強く、まずい手順を選んだかもしれない。 (中略)方針が定まらないまま指してしまったところがあるので課題が残った」と、相変わらず勝っても「課題」を口にした。

対局室に汽笛の音

 会場となった小樽湾が見渡せる料亭湯宿「銀鱗荘」の対局室では、JR函館本線を走る電車から「ボオー」という汽笛の音が聞こえていたそうだ。

 小樽市は鉄道ファン垂涎の地でもあり、近くには有名な「小樽市総合博物館」がある。蒸気機関車のアイアンホース号をはじめ、しづか号や懐かしの電車、さらには重要文化財になっている旧手宮鉄道の台車が回転する「機関車庫三号」などもある。もちろん、動く精巧な模型なども展示されている。

 鉄道好きの藤井は、汽笛が鳴るたびに気合が入っただろうか。藤井は子供の頃、将棋のことを考えながら歩いていて溝に落ちたという有名なエピソードもあるほどだから、ひとたび将棋盤に向かえばその集中力は並ではない。汽笛などまったく耳に入らなかったのかもしれない。

 第4局は8月15、16日に佐賀県嬉野市の「和多屋別荘」で行われる。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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